「ルナティック通信」-2000.Vol.5

日本映画ファン倍増計画 -私が見た愛しい映画人たち-4」 by助っ人T

塚本晋也監督の作品に出会ったことで私の生き方が大きく変わったことはご存知のと おり。私は彼ほど映画に見入られた人に出会ったことはない。知っている方も多いと 思うが、彼の映画制作について少しご紹介したい。塚本監督は自分の描きたい作品に 一切、手を加えられたくないという思いから、自ら制作費を集めている。(「ヒル コ」「双生児」を除く)知り合い等から資金を借り、完成後ビデオ権やTV権を売っ た資金で返済していくという“自転車操業”で、あの「鉄男」や「東京フィスト」は 生まれた。スタッフも素人の人々からオーディションし、あくまで手作りにこだわっ て作品を作っている。今の日本映画の撮影期間は極端に短い。制作費が少ないため1 週間ということもあるし、1ヶ月かける作品などめったにない。そんな中、塚本作品 は半年以上、監督の納得いくまで撮影に時間をかけている。それだからこそ、あの濃 厚な映像が生まれるのだ。よってプロのスタッフを雇うことは(人件費がかかるので) 不可能。でも監督はボランティア・スタッフに決して甘えず最終的には必ず、少ない ながらもギャラを支払っているという。その律儀さが多くのスタッフを惹きつけ、今 では固定したスタッフが強力に監督をサポートしている。彼らはさまざまな職業を持 ち、いざ撮影となったら集まってくるのだ。そうして作られた最新作「BULLET  BALLET」は塚本監督の魂がこもった傑作だ。監督にとって初めてのドルビー ・サウンドを使った映画ということもあり、設備のいい映画館での上映を望んだた め、公開が相当遅れてしまったという“いわく付”の作品でもある。(それまでの作 品はモノラルだったので、フィルムの缶に監督自ら「上映時、ボリュームを最大にし てください」とコメントが張ってあったらしい)最近、D・フィンチャー監督の 「ファイト・クラブ」が「東京フィスト」のパクリだと一部で話題になったが、私は フィンチャーと塚本監督は根本的に違うと思う。フィンチャーは絶望しか描かないけ れど、塚本作品は観るものに生きる力を与えてくれるから。それは善悪では計れない ものだけど、彼の作品には確実に希望がある。「BULLET・・」もまさにそんな 映画である。多くの人が彼の魂に触れてくださることを心から願ってやまない。


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