希望と絶望


 美少女ブームだそうだそうである。後藤久美子(ゴクミ)が火付け役である。テレビを見ていたら、ゴクミのポスターの写真撮りにクライアントを含めてなんと70人もの人間が参加していたと言うことだ。

 この話を聞いていて、私はある経済学者の「社会のソフト化・サービス化」 を扱った論文を思い出していた。

 政府の経済審議会・長期展望委員会は、「2000年の日本」と題する長期予測を発表し、この20年間で就業人口は約800万人増加すると予測した。(この増加分は大雑把に言うと、第三次産業が吸収する。)しかし、一方、社会全体にOA化が進むと、人手が余ることになる。ここに雇用問題が生じる。その解決策として、ワークシェアリング(労働時間を減らし、それによって全員に仕事を与える。)の手法が考えられる。その結果、人々は豊富な余暇に恵まれ、楽しみを追求し、自己啓発に努めることができる。

 しかし、現実は一人でやれる仕事をプロデューサー、ディレクター、スタイリスト、デザイナー、フリーライター、…等々の人が参加し、70人もの仕事にしたり、管理職ポストを増やし、命令系統を複雑化し、いぜんとして忙しく仕事をすることになっている。これをかの経済学者は、“なしくずしのワークシェアリング”と命名する。

 我が県庁も本格的に事務のOA化が進み、事務の効率化が叫ばれ、QC活動も行われているが、いっこうに労働時間は短縮されない。文書は加速度的に増え、忙しさは募るばかりというのが現実である。なしくずしのワークシェアリングが行われているのであろう。予算時期、議会対策、表彰、…等々内部処理のための膨大な仕事量、「公務員残酷物語」「公務員哀歌」の声が聞こえる。

 知事の標榜する生活文化県政、県政のスタンスが文化に向くとということは喜ばしいことだと思う。これはしかし一面、県政のソフト化という意味で、なしくずしのワークシェアリングの危険性を孕んでいる。これ以上仕事が増えると、いまでも疲幣している職員は文化的生活を望むべくもない。誤解を恐れずに極論を言えば、役人は、こと文化に関しては、市民の独自性に任せ、法に規定された仕事を確実にやれば良いのではないかと思う。飲料水の検査を迅速にする等、既存の仕事において「親切行政」に徹するほうがイメージアップ作戦で“あたたかい”イメージを売るよりは、県政は県民から信頼を得られ、あたたかい愛媛県政を実現する近道だと思う

 しかし、超過勤務100時間、ときには200時間そして手当支給は、 30%といった「公務員残酷物語」の職場、また、極度に管理された職場、…QC活動のいきつく先は、全く無駄がなく、コンピューターのフローチャートのように仕事が全て計画どおり、計算どおり、完全に合理的に運ばれる管理された職場であろう。(我々人間は息が詰まってしまう。)こういった職場では親切行政を行うゆとりはないのではないだろうか。

 このように職場には様々な矛盾や不合理が存在している。これらの矛盾や不合理を解決、克服して県政を推進していこうということに県当局も異存はないであろう。それにはまず不合理な現実を事実として当局も素直に認めるべきであろう。そこから対話は始まる。私の少ない経験においても、全く意見が異なり、敵愾心を抱いている人と接して、最後に心が通じたことがある。それには、互いの立場を尊重し、事実を認め、ほんとうのことを言うことが必要であった。確かに疲れる作業であったが、心が一瞬でも通じることは、生きる希望である。当局も努力してほしい。一方、組合も「法違反が横行する自治体職場」といった、いたずらに感情を逆撫でするような姿勢は慎むべきでないかと思う。

 組合に今、求められているものは、開かれた存在になること(その障壁に一つの誤解があるのではないかと思う。“組合は、イメージがいかがわしい、暗い、怖い、”といった誤解である。その誤解にはこう答えることができる。組合は、当局を写し出す鏡であると。つまり当局がいかがわしく、暗く、怖いのであろう。)、そして、職員の意見をリアルタイムに反映させることのできる実体を持つことであろう。そのために、皆さんの参加、協力を期待したい。

 最後に、映画“独裁者”の中のチャップリンの言葉を皆さんに贈りたい。「人々よ希望を失ってはならない。…… 諸君は機械ではない、人間だ。心に愛を抱いている。愛を知らぬものだけが憎しみ合うのだ。独裁を排し、自由のために戦え。“神の国は人間の中にある。”すべての人間の中に!諸君の中に!諸君は幸福を生み出す力を持っている。人生は美しく、自由であり、すばらしいものだ!諸君の力を民主主義のために集結しよう。」

 しかし、このチャップリンの言葉を自分で書きながら、私は、つぎのE.B.ホワイトの言葉にも引き込まれる。

 「私は人類にたいした希望を寄せていない。人間は、かしこすぎるあまりかえってみずから禍をまねく。」

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