旧愛媛大学(旧制松山高等学校)講堂

 
今も残る「松高」の正門。

 通っていた八坂小学校がすぐ近くあったので、よく遊びに行った。現在は愛媛大学付属小学校・中学校の敷地になっているけれど、当時はまだ大学生がいたように思う。しかし城北キャンパスに移転がほぼ完了していたようで、学生の姿もまばらだった。
 この正門をくぐると、正面にレンガ造りのりっぱな校舎があった。文理学部と記されていたように思う。小学生の私は、文学部と理学部が一緒なんて変だなと思った記憶がある。その建物も使われなくなってしばらく経っているようで、荒廃はすでに始まっているような感じだった。
校門から見た講堂

 大学の敷地に何をしに言ったのかというと、セミを採りにいった。記憶に残っているのは、いつも夏休みだ。当時を思い出すと、何故か夾竹桃の赤い花が鮮明に蘇る。宿題の終わった午後、一人で網を持って構内を歩き回った。
あぶらぜみ、みんみんぜみ、くまぜみの3種類のせみが松山周辺にいたが、羽が透明で、形も一番大きいくまぜみが小学生の人気だった。大学構内まで忍び込んでくる理由は、そのくまぜみを求めてのことだった。
 レンガ造りの校舎を左に曲がると、大きな楡の木?が茂る場所があって、そこでは「穴ぜみ」を探した。固い地面に小さな穴を見つけて、木の枝を入れる。運が良いとセミの蛹を捕獲することが出来た。この楡の木の茂る場所の近くにプールがあったように思う。しかし既に当時このプールは荒廃して使われていなかった。
 そしてその向こうには広大はグランドが広がっており、東の端にはテニスコートがあった。大学生がのんびりとテニスを楽しんでいた。そしてグランドの周囲、大学敷地の周囲は植栽されており、私は一日その木々を巡って歩いた、何周も日が暮れるまで。
講堂正面

 この講堂は、当時の私には興味がなかったのか、あまり記憶にない。山田監督の「ダウンタウンヒーローズ」のロケに使われて、そう言えばそんな建物があったかなという程度の記憶だった。
 日が暮れて、捕虫箱に数匹のせみと穴ゼミをいれて家路に着く。一度だけその穴ゼミの羽化に立ち会ったことがある。夜明け前、起きると羽化が始まっていた。元気がないので心配していると、うしろで父が霧吹きをしたらいいと言ってくれた記憶が残っている。白く透明なせみの羽化を見とれていた。
 痴呆の始まった父は今夏になると、せみを何十匹も集めてきては家の庭に放っている。穴ゼミの抜け殻を何十個も父の部屋で発見して愕然とする。父も少年の夏の日々、せみ採りに熱中していたのだろうか。

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