満 男:「人間は何のために生きてんのかな」
 寅さん:「生まれてきてよかったなって思うこと、何べんかあるじゃない。そのために人間生きてんじゃねえのかな」「そのうちお前にもそういう時が来るよ まぁがんばれ」
 山田洋次監督「男はつらいよ 寅次郎物語 」より

 うつうつ気分の解消法として、気持ちよく笑える映画を見ようと寅さん映画を2作品借りた。39作目の「寅次郎物語」と44作目の「寅次郎の告白」(両作品とも過去2回くらい見ている)。両作品とも印象に残るセリフがあるのだが、今回は今の自分の心により響く「寅次郎物語」を中心紹介してみようと思う(作品としては、吉田日出子の演技が出色の「寅次郎の告白」の方が出来が良いと個人的には思う。)。

 さて、「寅次郎物語」の冒頭は、満男(吉岡秀隆)の大学の進学の三者面談が描かれる。大学進学を迷っている事を高校の先生から聞かされたさくらはびっくりする。これが最後の寅さんの名セリフの伏線となっている。
 いつものように、こんな柴又での風景が描かれるのだが、そんななか、とらやに秀吉という男の子が訪ねて来る。秀吉は、テキヤ仲間「般若の政」とふで(五月みどり)の息子で、なんと寅さんが名付け親だった。政は女・酒・賭博に溺れ、ふでには蒸発され、「俺が死んだら寅を頼れ」という遺言を遺して急死。秀吉は、寅さんが政に出した年賀状を片手に福島から柴又へやって来たのだ。
 そしていつものように寅さんがとらやに帰り、秀吉少年と寅さんとの、大阪、伊勢・志摩、吉野、和歌の浦へ母を探し訪ねる旅が始まる。吉野の場面で今作のマドンナ隆子(秋吉久美子)が登場する。旅の疲れから秀吉は高熱を出し、旅館で寝込んでしまう。たまたま隣室にいた化粧品のセールスウーマン隆子の親身の看護で秀吉は回復する。秀吉を介して、いつのまにか寅さんと隆子は「とうさん」「かあさん」と呼び合う仲になっていた。
 親しくなった二人がお酒を飲みながらしんみり語り合うシーンがある。このシーンも最後の寅さんの名セリフに繋がっていく。

 隆 子:「あたし粗末に生きてしまったのね。大事な人生なのに。」
 寅さん:「大丈夫だよ。まだ若いんだし、な。これからいいこといっぱい待ってるよ、な。」
 隆 子:そうね。生きてて良かった・・・そう思えるようなことがね。」

 無事秀吉とふでは再会できそれを見届けた寅さんは、心を鬼にして「一緒に柴又へ帰りたい」という秀吉を叱り一人船に乗る。
 

 柴又に帰り着いたのもつかの間、寅さんはまた旅に出る。柴又駅に見送りに来た満男が寅さんに尋ねる。そして寅さんが一つ間をおいて答える。寅さんシリーズの中で私が一番好きなセリフシーンである。そのセリフが冒頭のセリフである。
 「寅次郎物語」は笑いより全編なんかしんみりさせる作品だっただけど、心に灯をともしてくれる作品だった。


 一方44作目の「寅次郎の告白」にも名セリフがあります。もうこの時期の作品では、満男の恋にテーマが移っているのですが、満男がこんなセリフをいいます。「伯父さん 世の中で一番美しいものは恋なのに、どうして恋をする人間はこんなに無様なんだろう。」
 恋を忘れた者にはもうそんなに心に響かないのだけど、名言ですね。それよりやはり終盤のシーン、満男と寅さんの会話が心に残ります。

 満 男:「おじさんは淋しくないの。」
 寅さん:「淋しさなんてのはなぁ、歩いているうちに風が吹き飛ばしてくれらぁ。」

 44作目公開は1991年、この年に渥美清は肝臓癌が見つかっている。どんな思いでこのセリフを言ったのだろう。

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