「この娑婆には、悲しい事、辛いことがたくさんある。だが忘れるこった。 忘れて日が暮れりゃあ、明日になる 。ああ、明日も天気かぁ」 山下 耕作監督「関の彌太ッぺ」より



 子どもの頃、祭りの夜に妹と生きはぐれになった上州関本生まれの無宿者の弥太郎(中村錦之助)。妹を探して旅をしている時、行きずり女の子お小夜を助ける。そして10年後、美しい娘(十朱幸代)に成長しているのを見届ける。だが弥太郎は、妹の死を知って以来、生きる目的を無くしたまま、助っ人稼業で命を張る荒んだ生活を続け、人相も変わってしまっていた。お小夜も命の恩人とは気付かない。  この間の事情を知っていて、命の恩人に成り済ましてお小夜に言い寄るのが、弥太郎の弟分、箱田の森介(木村功)。その事にかたを付ける弥太郎。



 お小夜との別れのシーンで、弥太郎がいうセリフが冒頭のセリフ。このセリフは、10年前父を亡くしたお小夜に弥太郎が励ますように言った言葉。お小夜は弥太郎が命の恩人であることをここで悟ります。しかし弥太郎は、やくざ同士の喧嘩のもつれから果し合いを申し込まれていて、相手の飯岡助五郎(安部徹)一家との果し合いの場に,一人向かいます。



 最後の果し合いの場に向かうシーンは、やはり中村錦之助が主演した「宮本武蔵 一乗寺の決斗」がオーバーラップするのですが、宮本武蔵と違って弥太郎の後ろ姿はどこか生きはぐれてしまった淋しさを感じます。


 先日親しい友人が亡くなった。親友と思える友人を失くしたのが彼で三人目だ。そして彼は自殺だった。一人で亡くなった。「この娑婆には、悲しい事、辛いことがたくさんある。だが忘れるこった。 忘れて日が暮れりゃあ、明日になる 。ああ、明日も天気かぁ」って声をかけることも出来なかった。  

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