「俺たちには、厳粛に生きるための厳粛な死が与えられていない。だから俺が死んでみせてやる。みんなが生きるために」  相米慎二監督「台風クラブ」より



 夜のプールで踊りはしゃぐ少女たち(りえ、やすこ、みどり…)。クラスの男(アキラ)を見つけると、丸裸にして、溺れさせてしまう。脳天気なのである。そこに来合わせたミカミ君とケン。ケンは、自分の家の戸口で、「ただいま、おかえり、おかえりなさい」と繰り返し独白し、好きな女の子(みちこ)の背中に劇薬を落としやけどをさせてしまう“あぶない”中学生。そして教師のウメミヤ、彼も授業中「娘をどうすんの」と付き合っていた女の母親と叔父に教室に闖入される始末。そんな中でミカミ君は、「個は、種を越えられるか」と考える内省的な少年。

 そんな彼等を台風が襲う。学校に閉じ込められるミカミ君たち。体育館で、レゲエのリズムに乗って乱痴気騒ぎが繰りひろげられる。(りえは家出をし、ウメミヤは件の女一家とやけくそのカラオケパーティの最中)乱痴気騒ぎも終わり教室で仮眠をとる仲間を起こし、ミカミ君が行動を起こす。「わかったんだ。りえが何故変になったか、俺たちがこうなったか。死は生に先行するんだ。死は生の前提なんだ…」冒頭のセリフがこれに続く。そして、窓から死のダイブ。

 大人たちもミカミ君が言う、厳粛な死を前提とした厳粛な生を生きることをしていない。多くの場合、生きている間はただ生きることに忙しい。目まぐるしく過ぎていく世の中の動きに折り合いをつけるのが精一杯。

 そして、人間は総じて、利己的で、保守的で、不寛容で、猥雑で、暴力的で、嫉妬深く、刹那的で、不遜で、頑迷で、恨みっぽく、自分の保身ばかり考える最低の生き物なのだ。そんな生き物に厳粛さなど求めるのは無理かもしれないよ、ミカミ君。でも、こうも言えるかもしれない。「人間は卑しい、悪い、そして恐ろしい。だが、素晴らしいのだ」(チャップリンの「ライムライト」)


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