仕立屋のイールは、周囲から変人扱いされ嫌われている。彼に心を許すのは、同じアパートに住む少女のみ。そして友と言えばペットのはつかねずみくらい。淋しさにたまらなくなると、娼館に慰めを求めに行く。
そんなイールの人生が、向いの部屋にアリスが引っ越してきてからガラリと変る。イールはアリスに恋をする。灯りを消した窓辺に立ち、向いに住むアリスの部屋を覗き見る。ただアリスを眺めることにイールは喜びを感じる。娼婦と寝ることももう必要ではなくなる。
そしてある雷雨の夜、稲妻の光に、窓辺に立つイールの顔が浮び上がる。驚くアリス。しかし、何故かアリスはイールに近づく。アリスにはイールに会い、確かめる必要があったのだ。あの殺人のあった日の事を。アリスの婚約者エミールは殺人を犯し、あの夜アリスの部屋に逃げ込んでいたのだ。
アリスのデートの誘いに応じるイール。アリスは愛していると言ってイールにキスを求める。しかし彼には彼女の本心が分っている。アリスはやくざな婚約者エミールのために自分と会っているのだ。そんなアリスをそのままイールは愛している。「ローザンヌで二人で暮そう。ローザンヌでは毎年雨戸を塗る。天気の良い春の日にペンキとハケを出す。何気ないことだが人生の喜びだ。始めは愛がなくてもいい、私は待つ。君の心のままに愛してくれればいい。人生を君に捧げる。」
駅でアリスを待つイール。発車時刻が迫り人込みのなかアリスを探すイール。ガランとした広い駅の構内で旅行鞄を持ち一人佇むイール……。彼の孤独感が切なく伝わる。
アパートに帰ったイールを待ち受けていたのは、刑事とイールを殺人犯と告発したアリス。アリスは証拠のバックをイールの部屋に忍ばせていたのだ。すべてを理解したイール。そして冒頭のセリフがイールの口から呟かれる。続いて、「でも平気さ、君は喜びをくれた」
人を愛するとはこういうことなのだろう。ありのままの相手を好きになること。それはアリスにも言える。自分を弄んでいることを分っていながらやくざなエミールを愛する。愛を求めることにより深い孤独を知る。とても切ない人生の本質である。