最後の5分のシーンは、晩餐会が終わり椅子に腰を降ろし疲れを癒していたバベットが立ち上がり、「私はカフェ・アングレの料理長でした」と告げるところから始る。その強烈な印象と存在感、紛れもなく主人公はバベットだと思い知らされる。目を見張る料理も添え物にすぎず、二人の姉妹の美しい悲恋のお話も挿話でしかない。
二人の姉妹は、普段は倹約家のバベットが、宝くじで得た1万フランすべてを晩餐会の料理のために使ってしまったことを知らされる。そして「あなたは一生貧しいままになるわ」とつぶやく。それに対するバベットの答えが冒頭のセリフである。 このセリフを聞き、我が身を顧み、自分の心の貧しさに改めて気付かされた人も多いのではないか。こういうセリフを言い切れるバベットに私は嫉妬すら感じる。しかし同時に勇気も与えてくれる。
すなわち、しっかりとしたライフスタイルを持ち追求することこそ、人生を真に豊かにする方法であり、自分を自身の人生の主人公となすことであり、そして他者をも幸せにすることであるとバベットは教えてくれたのである。
最初は、無視の態度を示していた田舎住まいの村人にも彼女の芸術(料理)は賞賛され、立身出世を果たしながらも「人生は辛くむごいもの」だと思い続けていたストイックな軍人ローレンスにこんなセリフを言わせるのである。「今夜私は知りました。この美しい世界ではすべてが可能だと」