男「何もなくすべて終わった。もう会っていない。何もなかった」

 女「ノー その方がもっと悪いわ」

          デ・ニーロ&ストリープ主演「恋におちて」より



 妻子ある男と人妻の恋。はじめは友人のような関係、お互いの持つ暖かさにひかれ自然に恋におちてゆくが、肉体関係には入れない。そして恋におちたと気が付いた時、互いに相手への愛情を埋み火として心に残し、二人は別れる。

 私は男性だから、デニーロの役に感情移入してしまうが、彼の表情やちょっとした身振りに心の動きが読み取れ、思わず照れ笑いをしていまう。ストーリーとともにそんな場面に切実にリアリティを感じてしまう。

 冒頭のセリフは、別れたあと、男が妻の詰問に答えるシーンのものである。「キスも何もしない……。感情さえ表現されない。だから忘れられない。」(『ノスタルジア』より)といった心情の夫に「セックスより深い関係」を感じ取った妻といったところだろうか。

 物語は結局、二人は別れ切れず、美しいハッピーエンドで終わる。しかし我々の生きる現実の場面ではどうだろう。

 恋愛は、本来個対個のものであり、どんな形をとろうと美しいものである。しかし、「モラル」に反すれば、秩序を乱すものとして、社会から「不倫」という醜いレッテルを貼られる。愛しあう二人も思い悩むのである。彼等の愛の純粋さ・美しさは、不純なもの・醜いものを残された者に押し付けて成り立っているのじゃないかと。

 この社会(偽善に満ちているにせよ)で生きている以上、こういった障害から逃れられない。愛を全うするには、閉じこめられた世界に生きるか、滅びるしかないと考えるのは私だけだろうか。それとも人間はもっと逞しいのだろうか。


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