「多すぎる火は何も生みはせん。火は一日で森を灰にするが、水と風は、100年かけて森を育てる。」「風の谷のナウシカ」から



 トルメキヤ軍の捕らわれの身となった風の谷の古老たちがトルメキヤ軍辺境指令官クシャナ姫に語るセリフである。

 主人公ナウシカの住む世界は、かつての産業文明を滅亡に追いやった「火の7日戦争」から1000年たった時代設定だが、今も戦争は絶えない。そして世界は腐海に呑み込まれようとしている。臨戦態勢のなか、ナウシカも戦闘服に身を固め、ガンシップを操り、火器を使用し、怒に我を忘れて人も殺す。

 しかし、そんな自分でありたくないとナウシカは悩み、成長し、最後にはそんな生きかたから抜け出す。「酸の海」のシーンで、ナウシカは戦闘服もメーベも失い、身ひとつでオームの大群の前に立つ。世界を焼き尽くした巨神兵の火の玉でもその暴走を止めることをしなかったオームもナウシカのその行為に心を開くのである。 

 「“おはなし”の世界ではあれでいいだろうが、現実はそう甘くない」と言われそうだが、理想を追求することを忘れ、現実を追認し続けた世界が、地球規模の様々な矛盾に苦しむ現代の世界である。人類の存続という大きな視点で見た場合、理想を追求することが一番現実的な選択だと、ナウシカの物語は私達に語っているのではないだろうか。


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