ラドミラルは、同時代に生きたモネやルノアールといった激しい個性を持った天才ではない。どちらかと言えば平凡で保守的な画家である。人生に強烈なものを求め続けている美しい娘イレーヌはそういった父親の絵を好きになれない。
その娘イレーヌとラドミラルはドライブに出かけ、森の中のレストランで娘に彼の人生を語るのである。「印象派や、新しい美術の運動に自分なりについていこうとしたが、やはりついていけなかった……」このあと、冒頭のセリフが続く。この父の言葉にイレーヌは心打たれる。「パパ、それは素晴らしい生き方よ。…私と踊って」と言って、イレーヌは老父と村人の踊りの輪に入るのである。
このラドミラルの言葉は決して敗残者の弁ではなく、イレーヌの言葉も慰めではない。ラドミラルは、彼自身の人生を生きたのであり、自身の人生を愛している。死を間近に控え、人生に悔いは感じていないのである。とかく我々は、属する組織に迎合し自己保身を図り、あるいは忙しく追い立てられるように生き、自分の人生を見失いがちである。しかし、少なくとも自分自身の人生の主人ではありたい。 子供達が去った後、ラドミラルはアトリエに入り、ひとり新しいカンバスに向かう。