「 Anything is possible 」 「アイリスへの手紙」から 



 菓子工場で働くアイリス(ジェーン・フォンダ)と社員食堂のコック、スタンレー(デ・ニーロ)の静かな恋。
 物語の導入部、カメラは街の風景の中に二人の姿を静かに追い、二人の置かれている状況と二人の性格をされげなく折り込んでいく。
 アイリスは最愛の夫を病気で亡くし、子供二人そして居候の妹夫婦の生活を支えている。高校生の長女は妊娠というトラブルも抱えている。
 スタンレーは老父との二人暮し。仕事を終わると、父親の話相手をし、映画を見るのが楽しみ。人と付き合うのを避け、田舎に引っ越したいと思っている。
 アイリスは、ボストンのホテルに泊って、ルームサービスで銀のポットに入ったコーヒーを飲むささやかな休暇を願い、「私は、太陽と人だかりが好き」と話す。
 スタンレーは、グランドキャニオンの谷底に降りて、6日間誰とも会わず、何も話さない休暇は最高だったと話す。

 そして、事件。スタンレーは文盲であることを理由に職を失う。そのことを負い目と感じるスタンレーは、アイリスとも別れる。職を失ったスタンレーは、父親を老人ホームに預けなければならなくなる。そして愛する父親の急死。 父親危篤の電報をも理解することのできなかったスタンレーは、やっとの想いでアイリスに「字を教えて欲しい」と告げる。それは愛の告白でもある。スタンレーの愛の表現はぶかっこうでじれったいかもしれない。最初の『授業』も酔っ払ってしか行けない。でも、私はそのかっこ悪さ、ストイックな愛の表現が好きだ。真剣に人を愛するということは、そういうことだと思う。アイリスはそのスタンレーを素直に受入れる。人を愛するとは、まるごと相手を受け止め受入れることだとアイリスは教えてくれる。

 物語にはハッピーエンドが用意されている。スタンレーの隠れた発明家という才能が認められシカゴの会社の正社員に採用される。新車でアイリスを迎えるスタンレー。「いい家を見つけたから一緒に住もう」とプロポーズするスタンレーにアイリスは、一緒に住むことの様々な大変さを伝え、最後に「その家のバスルームは広げることできるかしら」と聞く。そのスタンレーの答が冒頭のセリフである。そしてこのセリフはこの映画のテーマでもある。

 映画を見て「良い映画だけどこんな話映画だけのお伽話だろ」と言う人がいるかもしれない。しかし映画は、私たちの心の中にある小さな可能性、夢、勇気、冒険心を気付かせてくれ、その実現を願う者に励ましを与えてくれるのである。


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