東京通信第6信


 先日、高校を卒業したばかりの、妻の従姉妹にあたる女の子が遊びにきて、お台場、上野動物園、品川水族館、葛西臨海公園水族館、新宿高島屋にある3D映画館で上映されている「ブルー・オアシス」などに一緒に行ってきました。将来、水族館で働きたいと思っている彼女らしく、イルカやアシカのショーに熱心に見入ったり、「水族館裏方ウォッチング」に参加したりしていましたが、海が好きといっても、殺伐とした人工海岸やレインポウブリッジなどは眼中になく、カルフォルニアの海の生物を描いた映画には狂喜しても、眼下に見下ろす副都心や新宿御苑の眺めにはとんと興味がなさそうでした。大三島で生まれ育ち、いつかオーストラリアで暮らしたいという彼女。元気いっぱいの彼女を見ていると、こちらも釣り込まれて若やぐというよりも、急に自分が疲れた中年男のように(そうなんですが)、そして疲弊しているのは、この東京の街もまた同じであるように思えてきました。

 そんな「あてられた」状態が続く中、恵比寿ガーデンシネマに「エキゾチカ」を観に行きました。チェックのスカートと黒のハイソックスの間からのぞくお尻の連続写真がデザインされたポスターに、臭覚でも働いたのでしょうか。
 カナダの、日本ではこれが初公開となるアトム・エゴイアン監督の長編5作目にあたる映画です。南国風のインテリアのナイトクラブ「エキゾチカ」で踊るダンサー、クリスチーナは女学生のコスチュームが売り物です。そんな彼女をひときわエキセントリックに紹介するのが専属DJのエリック。「たった5ドルで、あなたのテーブルで、あなただけのために彼女が踊ってくれるよ。さあ、誰かいないかな」などと軽快にDJを進めるエリックですが、クリスチーナがある中年男の前でストリップをはじめたのを目にするなり、マイクも忘れてそのテーブルを嫉妬の眼差しで見つめ始めます。エリックがDJを終えて戻った楽屋に、「エキゾチカ」の女主人、身重のゾーイがいます。マジック・ミラーになった窓からダンサーたちを眺めながら、お腹の子や店について話す二人の様子は、オーナーとDJ関係以上に見えます。
 一方、とあるコンサート会場では、ペットショップを経営するトーマスがダフ屋を装ってゲイの相手を物色中。また、クリスチーナを指名した中年男、フランシスは、税務調査官で、夜になると「エキゾチカ」に現われ、自宅帰ると子守の少女を家まで送っていくという、一見変哲のない生活をしていますが、彼の家には黒人の少女の写真立てがあるばかりで、妻の姿も子供の姿も見当たらないのです。少女にお駄賃を渡すフランシスの目つきにも、異様なものがあります。少女の暮らすアパートには、車椅子の父親とおぼしき人物。「あの人、お友達?」と問う少女に、男は「まあ、そういうところだ」と言葉を濁します。
 フランシスがいつもクリスチーナを指名し、クリスチーナも必要以上にセクシーに踊ってみせるのを正視できないエリックは、DJブースを降り、マジック・ミラー越しにクリスチーナを見つめながら、まだ本当の女学生だった頃の彼女との出会いを回想します。エリックはフランシスに近づき、「彼女は君を待っている」とけしかけてクリスチーナにタッチさせ、「客は踊り子に触れてはならない」との「エキゾチカ」の規則を破ったフランシスは、店への出入りを差し止められます。
 フランシスは、すでにマークしていたトーマスのペット・ショップに現われ、脱税と密輸の摘発をちらつかせながら、かつて娘殺しの嫌疑をかけられたこと、妻もその後事故死したことなどを語ります。フランシスはトーマスを見逃す交換条件として、「エキゾチカ」へ行ってクリスチーナにタッチすることを迫ります。
 再び「エキゾチカ」。店の外でフランシスが拳銃を手に見守るなか、トーマスがクリスチーナに触れた瞬間.....。
 ラストシーンで一応の事実関係は明らかになりますが、「誰が誰を殺した」という類いの単なる謎解き映画ではありません。監督の言葉を借りるなら、この映画じたいが、さまざまな想いを剥ぎ取っていく痛ましい「ストリップ」ショーなのでしょう。

 「ある貴婦人の肖像」日比谷みゆき座、新宿ビレッジほかで公開されました。「ピアノレッスン」のジェーン・カンピオン監督によるヘンリー・ジェイムズの同名小説の映画化。19世紀後半、アメリカ女性イザベル(ニコール・キッドマン)は両親の死で伯母をたよって英国に渡りますが、財産家のウォーバトン卿(リチャード・E・グラント)や従兄のラルフ(マーティン・ドノヴァン)と結婚してレディー(貴婦人)の称号を得る生き方に疑問をもち、アメリカから追ってきた実業家キャスパーの求婚も退けます。しかし、欧州の文化を知悉しながらも地位も財産も持たない男、オズモンド(ジョン・マルコビッチ)にイザベルは惹かれはじめます。
 伯父のタチェット氏が死に、遺言で7万ポンドを相続したイザベル。ほどなく、オズモンドの求婚を受けたイザベルは、彼とともにローマへ。しかし数年後、オズモンドは前娘の娘と、イザベルのかつての求婚者ウォーバトン卿との結婚を画策し、自分との結婚も遺産が目当てだったこと、さらに前妻の娘というのは偽りで、今も関係を続けるマダム・マール(バーバラ・ハーシー)との間の子であることを知ったイザベルは、従兄のラルフの危篤の報を機に、夫の制止を振り切ってイギリスへ発ちます。イザベルが自由に生きられるよう、遺産の半分を彼女に譲ることを死の床のタチェット氏に進言したのはラルフでした。ラルフへの愛に気づいたイザベルの目に悔恨の涙があふれます。
 「ピアノ・レッスン」同様、激しく反発することが同時に激しく愛することでもあるという、女性の性格が見事に描かれています。やや冗長な感は否めませんが。

 「リチャード3世」。先にアル・パチーノが懇切丁寧に解説した「リチャードを探して」という映画がありましたが、こちらは舞台を20世紀に移してのド派手なアクションです。脚本・主演のイアン・マッケランのヤケクソ気味な怪演が楽しいでしょう。 「

97/3/24消印

 


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