東京通信第4信


ここのところ全国的には大手による複合型の映画館の開館ラッシュだそうですが、都心では却ってミニ・シアターの増加が目立ちます。本年96年は有楽町に旧有楽シネマを改装して「シネ・ラ・セット」が、また、シネマライズは2館に増えましたが、そうした新しい流れを受けるかのように、この両館で、イギリスで注目の新人ダニー・ボイル監督の2作品の上映となりました。

 まず第一作「シャロウ・グレイブ」は、ルームメイトの男女三人が、新しいルームメイトのドラッグ死と彼が残した大金をめぐって血みどろの争奪戦を繰り広げる話ですが、天井裏、床下といった空間をうまく使った演出で、まずは良質のスリラーといったところ。シネ・ラ・セットで12月20日まで上映されました。

 「トレイン・スポッティング」は今もシネマライズで上映中。金をめぐって崩壊する友情、といった大筋は「シャロウ・グレイブ」と同じながら、「ドラッグ」がより前面に押し出されているせいで、麻薬名どおりの「スピード」感、幻惑的な映像に溢れ、「タランティーノはもう古い」というのも、あながち大袈裟ではありません。

 スコットランド、エディンバラ。「出世、家族、大型テレビなんて生活はごめんだ」と言ってドラッグに溺れていたレントンは仲間のスパッドとともに逮捕され、ガールフレンドの「時代も、ドラッグも、音楽もどんどん変化しているのよ」という言葉を胸に必死の思いでドラッグを断つのですが、リーダー格のベグビーが手に入れた大量の麻薬の試し打ちを命じられ、仲間に復帰してしまいます。一行はロンドンでブツを売りさばいて大金を手にしますが、ベグビーの傍若無人な行動にさんざん振り回されてきたレントンは、とうとう、ベグビーの金を奪うことを決意します。

 ヤクはやらないのに喧嘩中毒とでもいうべきベグビー、昼はバブリック・スクールの生徒で夜はクラブの女に変身するダイアン、007オタクでロックにも一家言をもつシック・ボーイといった、キャラクターの面白さも、この映画の魅力でしょう。

 12月6日までともに新宿で上映されていた「サークル・オブ・フレンズ」と「スリープ・ウィズ・ミー」もやはり友情をめぐる物語といえるでしょう。しかしここでは、一人の異性を介して友情に亀裂が入り、もはや修復不可能といえる友情がどんな形で再生するかを描いています。

 前者は「ひと月の夏」のパット・オコナー監督作品。アイルランド、カトリックということで、上流階級の男に捨てられ、お腹のこどもの始末に窮して親友のボーイフレンドを誘惑して寝たり、そのこどもを堕ろして二人のよりが戻ったりする展開にわかりづらさはあるものの、気品のある佳作です。

 一方、「スリープ・ウィズ・ミー」は、親友に妻を寝取られた男が、結婚という形を乗り越えたところで、どう愛を取り戻すか、セックスを含めてかなり激しい展開です。男女の愛も、広く友情の一つでありうるといいのに、と考えさせられる2本の映画でした。

96/12/29消印

 


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