東京通信第3信


 「王朝末期、百鬼夜行のころ、希望にもえて上洛した純真な青年武士と、深窓に灼熱の胸を抱いて燃える高貴の姫を中心にえがく、剣と恋の物語!」

 上にあるのは、いま手許にある昭和43年刊、福永武彦著「風のかたみ」の帯の格調高いうたい文句の一節ですが、そうした気品をそのままに、30年近くの時を隔てて初めてこの小説が映画化されました。「遠野物語」などの村野鉄太郎作品で知られる脚本家、高山由紀子の念願の企画であり、自ら初監督にあたっています。東京国際映画祭の関連企画「カネボウ女性映画週間」で上映されたあと、渋谷東急3で単館上映されました。

 志を抱いて京に上った信濃の武士で笛の名手、次郎信親(坂上忍)は従姉妹にあたる萩姫(高橋かおり)を恋するが、姫は日毎女を替えるともっぱらの噂の蔵人の少将を慕っており、次郎はこれもさだめと、姫のしたためた歌を蔵人の少将に届ける役を申し出る。しかし蔵人の少将は姫を思いながらも恋に身を投じる勇気なく、拒絶の歌を託すに及んで、次郎は姫の心を奪う決心をする。次郎は一計を案じ、数日姫を山間の寺に留めて静かに待つが、姫の心がやはり蔵人の少将にあるとみた次郎は姫を返して出奔する。

 自らの心を知り、次郎のあとを追った姫だったが、かねてより姫をわがものにせんとしていた盗賊、不動丸によって囚われ、次郎と姫が再開した野は血の海と化す.....。

 次郎は破れ寺で我に返る。すべては京に上る途中に出会った陰陽師(岩下志麻)の見せた幻術だったのである。「それでも京へ行くか」と問う陰陽師に、次郎は力強くうなずく。

 咲きこぼれる萩の花が印象的な投影、美術ともに、出色の出来といえるのですが、CGの多用などに、この時代に王朝ものを作ることの難しさが見えました。

 「リービング・ラスベガス」
 11月初旬まで有楽町スバル座で上映され、今はシネスイッチ銀座でアンコール上映が行われています。アル中のためにハリウッドを干された脚本家の男と、ラスベガスの街娼が、時にいたわり合い、時に傷つけ合いながら、男の死までの時を過ごす話です。人間の弱さから目をそむけないだけの強さ、といったものがある映画です。フランク・シナトラをカヴァーしたスティングのジャージーな歌が、アルコールの酔いのように全編を回っています。ニコラス・ゲイジはこの映画でアカデミー主演男優賞を受賞。

 「クロッシング・ガード」
 ショーン・ペンの「インディアン・ランナー」につづく監督第2作は銀座テアトル西友で上映中です。娘を交通事故で亡くし妻子に去られ、復讐を誓う男(ジャック・ニコルソン)と、罪の意識と復讐の恐怖に苛まされる男とが、暗闘のすえ娘の墓の上で和解するまでの物語。つきつけた銃口を力なく下げさせる、その力は何なのでしょうか.......?

 

96/11/25消印

 


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