東京通信第1信



 先日は、短いバカンスにつき合っていただき、ありがとうございました。東京に帰ってすぐは「今度は伊豆あたりにでも泳ぎにいこう」と息巻いていたのですが、例によってゴロゴロしているうちにめっきり涼しくなってしまって、もっとも、観測史上二位などという日もあるにはありましたが、なんということなく夏が終わりました。センター街にルーズソックスの女子高生が戻ってきて、東京国際映画祭の告知が目につくようになると、ああ、秋だなあと思う。乏しい季節感ではあります。

 その渋谷道玄坂にある「シネセゾン渋谷」では20日まで「Love Letter」の岩井俊二監督「PiCNiC」が単館上映されていました。94年に撮影されながら公開が延期されていたという1時間ばかりの作品です。近未来、施設(精神病院?)に入れられた三人の男女が、牧師からもらった聖書から7月10日を地球滅亡の日と信じ、それを見届けるため施設を抜けだし塀づたいにどこまでも歩いていくというお話です。殺した担任教師の幻想に悩まされるツムジ(浅野忠信)と、パパは神様で「あたしが死ぬときが地球の終わるとき」と信じるココ(Chara)の二人が、塀の尽きる海までたどり着いたとき、ツムジの苦しみを終わらせるためココが頭を撃ち抜く、悲しい結末です。ココのまとっていたカラスの羽のショール舞い散るなか、悲嘆にくれるツムジにぼくは思わず「そう、たった今、地球は滅んだだよ」と言ってやりたくなりました。ウルサ方がこの映画を見ればきっと「大人は判ってくれない」「ノスタルジア」「ピンク・フロイド・ザ・ウォール」「バーディー」等々の名前がポンポンと出てくることでしょう。たしかに岩井俊二は映像世代の申し子、という気がします。それでも個性が際立つのは、彼が「施設」というもののなかで培われた世界観、どこかいびつで不完全でありながら、限りなく懐かしい世界観を、愛し、決して捨てようとしないからだと思います。

 なお、この映画の同時上映は92年にTV放映された「フライド・ドラゴン・フィッシュ」、また東宝系では同じく岩井俊二が原作で浅野忠信が主演した「ACRI」も公開中ですが、こちらはストーリー運びの拙さがたたって、現代の伝奇ロマンとまではいかなかったようです。「スワロウテイル」が期待されるところです。

 渋谷のシネアミューズ、および有楽町にオープンした「シネ・ラ・セット」では「ビリケン」の上映が終了しました。「王手」以来の阪本順治の大阪もので、「大阪オリンピック」誘致のため取り壊しの危機に瀕した通天閣を守るため、復活した福の神「ビリケン」が大活躍、というものでした。適度にエンターテイメントしていて、なんといってもビリケン像そのものみたいな杉本哲太の怪演が見ものです。

 Bunkamuraのル・シネマ1,2の二館で上映されていた「大喝采」は二館同時に終了しました。「大喝采」の前に「パトリス・ルコント・コレクション」と題してルコントの「タンデム」以前の未公開だった監督作品が一挙上映されました。異色のアクション映画「スペシャリスト」を除いてすべてミシェル・ブランとのコンビによるコメディで、デビュー作には「タンデム」のジェラール・ジュニョー(ハゲてます、もちろんミシェル・ブランも)「タンゴ」のティエリー・レルミットもでていて、ルコントが俳優との関係をとても大事にしてきたことがよくわかります。今度の作品も俳優の持味を生かすためにつくられた映画といってよさそうです。今回、それはフランスの大衆演劇への復帰を目論む3人の大根役者と、保険金詐欺のため公演をぶっつぶそうとする二代目興業主とのドタバタ劇でした。(興業主=ミシェル・ブランに髪がある!)初期の作品のコメディ・テイストが抜群だったので期待したのですが、ルコント持ち前のデフォルメと省略がちょっとききすぎたようです。

 来月はもう少しちゃんとした報告ができるでしょうか。800円で観れるとなると、とたんに重い腰のあがる二人ですから。こちらではまもなく東京国際映画祭が始まります。

96/9/20消印



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