心に残る映画39「女神の見えざる手」




 アメリカの政財界ひいては外交の場面ではロビー活動の果たす役割が大きいと言われている。だけど日本では馴染みがないのでピンと来ていなかったけれどこの作品をみてロビー活動そしてロビイストの実態がよく分かった。
 特定の団体の利益をはかるため、議員に働きかけて議会での立法活動に影響を与えるというのがロイビストというのはなんとなく理解していたのだけど、法すれすれの手段でマスコミや世論も動かすのがロビイストというのが生々しく理解できた。時には議員の醜聞を探り出し脅すこともする。
 そんなロイビストの中でもエリザベス・スローン(ジェシカ・チャステイン)は、誰もが認める凄腕のロビイスト。見た目もオーラが溢れている。シックでセクシーなスーツ、高いハイヒール、際立つ口紅。社内での会議に於いてプレイニングマネージャーとして議論を主導する姿に圧倒される。
 スローンはクライアントにも媚びない。この映画では、銃擁護派団体がクライアントになるのだけど、その初めての顔合わせの日意見の食い違いがある彼らの主張を躊躇なくこき下ろす。
 結果彼女は部下4人を引き連れて銃規制法案可決を推進する小さなロビー会社に移籍する。そして法案を可決させるべく奔走するのだけどその手段を選ばない手法は仲間からも批判される。しかし彼女は怯まない。
 映画では、そんな表の彼女の強い姿勢だけでなく彼女の弱い裏面もしっかり描かれている。不眠症でパニック障害でもある彼女は依存性の高いベンゾ系薬物を飲み、ストレス解消に「男娼」も利用する。
 スローンの攻勢に劣勢にたった銃擁護側は正面から対決せず公聴会で彼女のこのプライベートでの弱点や過去の案件での不正疑惑を探し出し追求する。スローンは一転窮地に追い込まれるが最後に彼女の入念に仕組んだ策が功を奏し大逆転となる。ただ身を切らして骨を切る策なので彼女はそのキャリアを失う事になるという結末。
 作品のエンディングシーン、議会での偽証の罪で収監されたスローンを弁護士が面会に訪れます。カジュアルな服装でズックを履いて現れたスローンの背の低さに驚きました。その姿はみじめに思えて普通なのですが、彼女は落ち着き一回り人間の幅が大きくなったように思えました。
 作品を見ていて彼女はただ勝利への執着のためだけに仕事をし生きているのだと誤解してました。自分のキャリアを失ってまで彼女が(ソクラテスのように)拘り貫いたものは正義であり信念だった事に最後に気付かされます。彼女はこれからも人生を善く生きていくだろうと確信しました。
 久しぶりに傑作を見た思いです。一つだけ残念なのは日本版の作品名。原題のとおり「ミス・スローン」で良かったと思います。

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