心に残る映画36「ラ・ラ・ランド」


 主演のライアン・ゴズリングとエマ・ストーン。この二人とも最近気になっている好きな俳優さん。哀感漂う雰囲気を出せる俳優さんだなと思う(エマ・ストーンはその濃い容貌に関わらず)。ライアン・ゴズリングは、「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命」と「きみに読む物語 」が印象に残って好きな作品。エマ・ストーンは、「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」での夜の屋上でのシーンが印象的。


 映画の冒頭シーンは強烈。ハイウェイの渋滞に業を煮やした人々が踊り出すシーンはまさにミュージカルの始まりと思わせる(同時にやはりミュージカル映画はハリウッド映画じゃないと!と思わせる)。そこで歌われる歌「Another Day of Sun」がまた良い。どんな逆境に置かれた者にでも誰にでも「朝が来れば 新しい日」は平等に用意されている事を映画を見ている間だけでも思わせてくれる。俯いて生きていた人も映画館の扉を出て少し前向きになれるんじゃないかな。それが、作り物なんだけど映画の「効用」なのだと思う。
 字幕ではうろ覚えだけどこんな風に訳されていた。
 「輝く光を求めて 立ち上がり前を向く 朝が来れば 新しい日が始まるから 新しい今日は始まったばかり」


 映画のストーリーは、女優志望でオーデションに落ち続け自信を無くしているミア(エマ・ストーン)と自分の好きなスタンダードジャズの演奏ができる店を持つことを夢見るけれど厳しい現実との間で揺れるセブ(ライアン・ゴズリング)。二人の出会いと別れ、そしてそれぞれが夢を果たした後の再会。でもそれぞれの生きる世界に戻って行くというもの。その物語が四季が巡る中で描かれる。たぶん若い人は今を生きる自分と重ね合わせ胸に迫るものがあるのではと思った。
 若い時の特権は、「朝が来れば 新しい日が始まる」と思える事。そして夢を追える事。しかし「老サラリーマン」になると、「かの白蟻たちがするように光明へのあらゆる出口をセメントでむやみにふさぐことによって」「平和を建設し」「宿っていたかもしれない、眠れる音楽家を、詩人を、あるいはまた天文学者を、目ざめさせることは、はや絶対にできなくなってしまった。」(「」の部分はサン・テグジュペリの「人間の土地」から引用)私も夢を追った時期もあったが、数十年経った現実は老いぼれたサラリーマンになり果てている。


 現実では多くの場合夢は叶わない。主演女優にまでなったミアや品の良いジャズクラブのオーナーになったセブのように夢を叶えることが出来るのは、確率で言えばたぶん数パーセントだろう。多くは「老サラリーマン」として生きている。
 そもそもこの作品の "La La Land" という映画の題名の意味は何だろう? "La" の部分は、ロサンゼルス(Los Angeles)の略語が "LA(エル・エー)" であることに由来している。 "La La Land" という表現には、「現実離れした世界、おとぎの国」という意味合いも込められているという。つまり、映画「ラ・ラ・ランド」に込められている意味は「ロサンゼルスを舞台にしたおとぎ話のような恋の話」ということになります。
 言ってみればこの作品のストーリーはおとぎ話なのです。でもおとぎ話に心ときめかせ我々は今を生きる勇気をもらえるのじゃないかと思います。しかし結局夢を叶えられず人生を終える人がほとんどです。そんな我々に、北野武さん「」新しい道徳」の一節を引用し贈りたい。
 「夢なんてかなえなくても、この世に生まれて、生きて、死んでいくだけで、人生は大成功だ。俺は心の底からそう思っている。贅沢と幸福は別物だ。慎ましく生きても、人生の大切な喜びはすべて味わえる。人生はそういう風にできている。」



 以下は自分の備忘録的追記です。  「ラ・ラ・ランド」を見て、時代背景が違って趣は違うけれど、やはり「出会いと別れそして再会。」の物語を描いた映画「追憶」を思い出す。その映画は何十年も前若き日に見たのだけど、今でもそのテーマ曲を聞くと胸に迫るものあります。主演はロバート・レッドフォードとバーブラ・ストライサンド。「ラ・ラ・ランド」と違っておとぎ話ではなく、とてもシリアスでリアルなストーリーです。だからこそ余計に胸に迫るものがあるのかもしれません。サントラ版のLPも持っています。バーブラ・ストライサンドの歌うテーマ曲「The Way We Were」は私の映画音楽の中でベスト1。

「The Way We Were」の冒頭の一節
Memories, light the corners of my mind
Misty watercolor memories of the way we were.
Scattered pictures of the smiles we left behind
smiles we gave to one another
for the way we were.
(web上にあったちょっと意訳したでも素敵な訳詞)
想い出は、私の心も隅を照らす
遠い日の記憶は淡い水彩画
笑顔で写っていた忘れかけた写真
お互いに微笑みあった 遠い日の想い出

 以下は本当に蛇足的備忘録です。
 この作品映画館で観たのですが、通常はエンディングロールが流れ始めると私は席を立つのですが、列の端の席に座っていた方が席を立たなかったので、私も出るに出られずエンディングロールを最後まで見たのですが、作品で使われた曲として「Japanese Folk Song」という文字が目にとまりました。後で調べると、セロニアス・モンクが弾いている「荒城の月」でした。映画のどこかで流れたはずですが気がつきませんでした。

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