心に残る映画31「めぐり逢わせのお弁当」


 映画を見るということは、異文化に触れるということだと思う。この作品を見て今まで知らなかったインドの文化の一部が垣間見られて、日本文化との違いにちょっとびっくりした点がいくつかあった。
・まず、インドはほんとうに人が多いということにびっくりさせられる。朝の電車での出勤風景が写されるが、日本の終戦直後のように電車の連結部に人がはみ出して鈴なりになっている。
・次に、インドではランチタイムが午後1時からということ。そしてどうも一般企業の仕事の終業時刻が午後4時45分だということ。そしてオフィスの仕事は全くのアナログ、PCが1台も存在しない。この風景の真偽のほどはちょっと不明。
・三つ目は、寝たきりの夫を介護する老夫婦二組がエピソードとして描かれるが、インドの年金制度福祉制度はどうなっているんだろうと疑問が湧いてくる。
・四つ目は、ヒンディー語と英語が入り交じって話されるということ。これは映画だからだろうか?


 そしてなによりびっくりさせられるのは、この映画の題材になっている弁当配達システムの存在。弁当配達人が朝各家庭をまわり弁当箱を集めて、ランチタイムに弁当をオフィスに届けるシステムがあるということ。そして空の弁当箱を回収して各家庭に戻すのだ。たぶんこの仕事だけで配達人は家族を養っているのだと思う。子供の頃、近所に傘屋さん、肉屋さん、魚の行商の人がいたが彼らはその単一の商売で一家を養えていたと思う。インドでは今も色んなシンプルな職業が存在し得てそれで生活が成り立っているのだろう。そんな時代の方が豊かな社会のように思える。
 本題に戻そう。配達人が自慢してこう言います「ハーバード大学の先生がこのシステムを研究して完璧なシステムだと発表した」と。ところがこのシステムが完璧でなかったことからこの映画のドラマが生まれます。


 舞台はインドの大都会ムンバイ。ある日、集合住宅に住む主婦のイラ(ニムラト・カウル)は冷め切った夫の愛を取り戻そうと心を込めてお弁当を作ります。ところがそのランチボックスが誤ってサージャン(イルファン・カーン)のもとに届きます。妻に先立たれ早期退職し田舎に引っ込もうと決めていた初老のサージャンはいつもの弁当屋さんの作った弁当と違った久々の手料理の味に心動かされます。
 イラは弁当の具材が残されず空になって戻ってきたのを喜び、夫に「美味しかった?」と聞きます。夫は「カリフラワーが美味しかった」といいます。イラは具材にカリフラワーなど入れてなかったので、間違ったところに自分の作った弁当が配達されたことを知ります。そして弁当箱にメモを入れます。サージャンもメモを弁当箱に入れ返信します。
 ここから孤独な男女の心の交流が始まります。冒頭、国が変われば文化の違いにびっくりさせられると書きましたが、男女の想いだけは国が変わっても同じなんだなと思いました。「文通」は続き、夫の浮気を知ったイラは、優しいサージャンへの想いが募ります。そして彼女の方から逢うことを求めます。待ち合わせの場所まで行ったサージャン、イラを確認した彼ですが、声をかけることが出来ません。彼は出かける際に身だしなみを整えますが、その最中自らの加齢臭を感じ取り、また電車で席を譲られ自分の老いを実感します。そしてイラを見たサージャン。彼女の若さと美しさに戸惑い、声をかけることが出来なかったのだと思います。


 そして問題のラストシーン。曖昧な描き方でどう解釈したらいいのか分かりませんが、監督はたぶん観客それぞれに解釈を求めているんだと思います。私がサージャンなら、当然イラを迎えに行く。あの美しいイラを目撃したらその衝動は抑えられないと思う。

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