心に残る映画26「ジャッジ 裁かれる判事」



 映画の冒頭、のどかなあじさいの水やりの場面から一転、シカゴの裁判所での辛辣なやりとりの場面に切り替わる。辣腕弁護士ハンク・パーマー(ロバート・ダウニー・Jr)は、検事を相手に、「たとえ無罪でも貧乏人は僕を雇えない」と公言する。また「ナイスバディの妻を持ちフェラーリにも乗れる」と自慢し、法廷で依頼人も恫喝する怖いものなしの自信家でもある。
 その彼の元に、母の訃報が入る。自宅でのナイスバディの妻との不機嫌なやりとりがあり、実は離婚協議中であることが明らかにされる。「おばあちゃん」の葬儀に一緒に行きたいとせがむ可愛い娘を押しとどめるハンク。実家との関係もこじれていることが暗示される。
 20数年振りに帰省するハンク。実家はインディアナ州カーリンヴィル。峠からその町並みが見えるのだが、緑豊かな美しい山間の街だ。メインストリートを走るハンクのレンタカーから見えるのは、田舎にしては活気のある洗練された街だ。街を行き交う人々も幸せそうだ。こんな良い所になぜ20年も帰省しなかったのか?
 ハンクは、まず裁判所に向かう。そこではちょうど公判が開かれており、重厚で貫禄のある老判事が判決を言い渡すところだった。その判事こそ彼の父ジョセフ・パーマー(ロバート・デュバル)だった。ところが、通夜の席、弔問に来た客にはハグをして歓迎するが、ハンクには握手のみ。父子には大きな溝が存在することが伝わってくる。実家で待っていた長男の兄グレン(ビンセント・ドノフリオ)と、弟デイル(ジェレミー・ストロング)とはすぐ打ち解けていくが、どこか距離感がある。この家族には何か秘密があるように描かれている。

 葬儀の後、父は一人で車で出かける。翌朝父の車の破損を発見したハンクは、妻の死の辛さから28年の禁酒を破り、飲酒運転をした結果、自損事故を起こしたと判断した。しかし車に残っていた血痕と州道脇で発見された遺体のDNAが一致し、殺人の容疑がジェセフに掛けられる。しかも遺体は父ジェセフと因縁のある男で、コンビニの防犯カメラにその男の後を追うジョセフの車が写っていた。しかしジョセフには事故を起こした記憶がない。
 結局、ジョセフは第一級殺人犯として起訴され裁判となる。作品名のとおり法廷劇ではあるが、裁判を通して轢き逃げ事故の真相を追うサスペンスであるとともに、パーマー一家の秘密を解き明かすサスペンスでもある。そして何より絶縁状態にあった父ジョセフと子ハンクの和解の物語であり一家の再生の物語でもある。父子の関係を破綻させた過去の悲劇と、時を隔てて起きたひき逃げ事件との意外な関連性が解き明かされていく見事な脚本に脱帽する。


 子供への愛情を上手く表現出来ない父と父の愛情を疑う子。公判の証言という形で真情を吐露する父ジェセフ。父の思いを知った子ハンクだが、父のために完全勝訴は勝ち取れなかったハンクの悔しさと悲しみ。陪審員による「公平で正しい」妥当な判断が示される。死期の迫った父は収監されることとなる。この法廷でのロバート・デュヴァルとロバート・ダウニー・Jrの演技には圧倒され、静かな感動にひたることが出来る。この二人だけではない、ハンクの兄弟グレンとデイルを演じた二人もとてもいい味を出している。そして法廷で検察官ディッカムとして登場するビリー・ボブ・ソーントン、正義の検事役で冷徹といった役所だが、閉廷後のシーン、背後でハンクを気遣う彼の演技、ハンクに伝わってほしいなと思った。


法廷劇が終わった後、少し長くエピローグが続く。多くの映画では蛇足になる場合が多いのだが、この作品ではどこまでもエピローグが続いてほしいなと思わせる余韻のある作品であった。それと個人的にも私の生きた家族の歴史とたどり着いた今の状況にあまりにも符号するので身に詰まされる作品でした。私も弟デイルの撮影したと同じ幼い日の幸せな家族の映像を脳裏に思い浮かべてこの記事を書いています。



最後に、コールドプレイというグループの歌うThe Scientistという曲が流れます。とても作品にあった良い曲です。

(原詩)
Tell me your secrets
And ask me your questions
Oh let's go back to the start
Running in circles; coming up tails
Heads on a science silence apart

Nobody said it was easy
It's such a shame for us to part
Nobody said it was easy
No one ever said it would be this hard
Oh take me back to the start

(私の個人的意訳)
君の思いを口に出して欲しい
そして、何でも聞いて欲しい、僕もちゃんと話すよ
出会った頃の二人に戻ろうよ
これまで堂々巡りで、結果はよくないことばかり
僕は理屈ばかりで、結局ふたりは黙り込むしかなかった

簡単なこととは思ってないけど
このまま分かれるってよくないよ
簡単なこととは思ってないけど
こんなに辛いとはもっと思ってなかったんだ
出会った頃の二人に戻りたいよ

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