心に残る映画25「特捜部Q 檻の中の女」


 良い映画には良い原作と優れた脚本があるといつも思う。この「特捜部Q檻の中の女」も同名の原作があり、ファンの中では北欧ミステリーの最高峰と評判らしい。原作者はデンマークの作家ユッシ・エーズラ・オールスン。5作まで出版されていて「檻の中の女」はその記念すべき第1作。脚本は、スウェーデン映画「ミレニアム ドラゴンタトゥーの女」のニコライ・アーセルが担当している。因みに、私にとって「バベットの晩餐会」「ペレ」以来約30年ぶりのデンマーク映画である。


 「特捜部Q」とは、コペンハーゲン警察署の地下に、法務省の肝いりで新設された過去の未解決事件を扱う部署。そこに配属されたのは3ケ月前の事件で重傷を負って復職したばかりの元殺人課のカール・マーク警部補(ニコライ・リー・コス)。先の事件で、部下一人は殉職し、もう一人は寝たきりとなっており、その責任を取らされての左遷であり、上司が想定している仕事内容は、捜査終了と判断された事件の資料を整理するだけの仕事。優秀だが、厄介者のカールを隔離するように作られた部署のようだ。部下はアラブ人(たぶん)のアサド(ファレス・ファレス、)の一人だけだったが、彼は知性とユーモアを兼ね備えた優秀な部下だ。その彼が、ヤル気のないカールに差し出したのは、フェリーから失踪した女性議員ミレーデ(ソニア・リクター)のファイル。 投身自殺と片付けられていた解決済みの事件。


 カールはその捜査結果に直感的にを違和感を持ち、助手のアサドとともに調査を始める。過去の調査記録を洗い直し、ミレーデの失踪当日の現場をひとつひとつ辿る捜査を続けるうち次々と新事実が明らかになり、ミレーデは自殺ではなく事件に巻き込まれたのでは?たという疑念をカールとアサドは持つようになる。やがて、ミレーデは、生きており虐待を受けながら監禁されている真相が、次第に明らかになって行く。そしてなぜ拉致され生きたまま「加圧室」に何年も虐待と拷問を受けながら監禁されているのか、その理由が犯人の過去を追う映像によって明らかにされて行く。


監督ミケル・ノルガードは、この失踪の顛末や犯人の動機を明らかにしていく捜査の展開では過去の映像を、一方で監禁されたミレーデの現在の極限状態を交互に見せる。見る者は一瞬たりとも瞬きもできない。とりわけ印象的なのが、粉雪が舞う中を少女ミレーデが呆然と佇むシーン。その息を呑む美しいシーンと全く対称的な監禁されたミレーデが歯痛に苦悶しペンチで歯を自分で抜く凄絶シーン。両シーンともある意味非現実的で、網膜に焼き付いている。


最後、次回作を期待させる余韻を残してエンドマークとなります。スリラーとサスペンスの要素が加わった緊迫感のある作品です。でもカールとアサドの二人の相棒コンビはどこか映像に救いを与えるようなユーモアと暖かみを感じさせます。次回作が楽しみ。

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