心に残る映画24「マダム・マロリーと魔法のスパイス」



 インドのムンバイでレストランを営むカダム家は選挙絡みの暴動により店が全焼し、母親まで失ってしまう。家長であるパパ(オム・プリ)は子供たちを連れてまずイギリスへ、そして美味しい食材を求めて南フランスの山間の小さな町にたどり着き、そこで再びレストランを開業しようとする。
 まず日本人として驚くのは、大陸の人の生命力の強さ(特にパパ)、トルコ移民としてドイツに定住した一家を描いた「おじいさんの里帰り」でも思ったのだけど、難民としてではなく新天地を求めて一家で外国で生きていこうとする彼らの生命力の強さに敬服してしまう。


 カダム一家がオープンしたインド料理の店「メゾン・ムンバイ」の真向かいほんの100歩の距離(映画の原題は「THE HUNDRED-FOOT JOURNEY」)には、ミシュラン一つ星を誇り大臣も食事にくる格式の高い老舗フレンチレストラン「ル・ソール・プリョルール」があった。このレストランを夫の死後一人で切り盛りしているのは、頑固で気位の高い女主人のマダム・マロリー(ヘレン・ミレン)という設定である。
 格式高い名門フレンチと賑やかなインド音楽の流れる庶民派インド・レストランという図式の中で、お互い頑固者同士マダムとパパが衝突を繰り返して行く。しかし、監督は「マイ・ライフ・アズ・ア・ドック」のラッセ・ハルストレム、製作はスティーヴン・スピルバーグ、配給はディズニー、とくれば、結末は当然ハートウォーミングな温もりのあるものとなる。マダムとパパの諍いも予定調和な安心感のあるコミカルなもので(ちょっとスパイスが足りないか)、微笑ましく楽しむことができます。


 キーマンは、次男のハッサン(マニシュ・ダヤル)。彼は名料理人の母から絶対味覚を受け継ぐ料理の天才。彼の存在がパパの勝算でもあるし、マダムの頑なな心を溶かし「自由、平等、友愛」というフランス人が本来持つ精神をマダムに自覚させ、ハッサンの天賦の才能を受け入れる。
 ハッサンはフランス料理に興味を持ち、マダムのもとで修行をすることとなり、「ル・ソール・プリョルール」を二つ星の店にする。その後はハッサンのドリームサクセスストーリー、パリで「分子料理」の分野でも活躍し社交界でももてはやされるが、「料理は、生命を犠牲にして味わうものだから、そこには食物の霊魂がこもっている、料理は自然体で想いを込めて作るもの」という母の教えと恋人マグリット(シャルロット・ルボン)への想いに導かれ、「ル・ソール・プリョルール」に戻ってくるというお約束のハッピーエンドです。


 最後にちょっと辛口の感想を。この作品、フランスが舞台なのだけど、フランス人もインド人も英語を話すアメリカ映画なのです。フランス人が見たらどう思うのだろう、日本を舞台にしたアメリカ製作の映画って日本人が見たら嘘っぽいところが多いのだけど、そんなところはないのだろうか?
 それと、フランス料理はたくさん出てくるのだけど、インド料理がほとんど出てこない。ハッサンもフランス料理に傾倒していく。カダム一家は、フランス化してフランスに馴染んで受け入れられていく、、、。
 そんなところが引っかかって素直に「いい映画だ」と言えないのである。「おじいさんの里帰り」では素直に「いい映画だなぁ」と思えたのだが。

 最後の最後に逆に好きなシーンを紹介。マダムとパパがシャルル・アズナブールの「Yesterday When I Was Young 」に併せて踊るシーンの直前、パパがマダムに「almost girlfriend」でいて欲しいと打ち明けるシーン。う〜ん。男女の仲って「almost girlfriend」の関係が一番いいなぁと改めて思いました。この「almost girlfriend」という言葉を知って忘れられない「心に残る映画」となりました.
 蛇足が一つ、町長役でいい味を出していた俳優さんどこかで見たことあるなと思って調べてみたら、「仕立屋の恋」のミシェル・ブランでした。

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