心に残る映画23「わたしは生きていける」


 ロンドンのヒースロー空港に降り立った少女デイジー(シアーシャ・ローナン)が出迎えを探すシーンで始まる。デイジーはヘッドホーンでけたたましいロックを聴くパンク・ファッション。そして彼女の頭の中には「ルール」を話す声が聞こえる。うーん、独特な雰囲気だ(あとで、あのパンクロックは彼女の頭の中に聞こえる声を消すためだったのかなと理解した。)。そして空港ロビーのテレビにはパリ市街がテロ攻撃を受け燃えさかる映像が流れ空港内には武装した兵士がたくさんいる。ちょっと現実離れした作品のようだ。


 そこに陽気な従兄弟アイザック(トム・ホランド)が迎えに現れる。物語が進行するにつれおおよそ彼女の置かれた状況が理解できる。デイジーは彼女の誕生の際母を亡くし、父とは折り合いが悪く、家庭に居場所が無いと思っている。そんな16歳の彼女は一夏を過ごす為、ニューヨークからイギリスの田園地帯に住む叔母の家にやって来る。
 彼女は母の死は自分のせいだと罪の意識を持ち、自分が行くところ回りが不幸になって行くと思っている繊細な少女。そのせいで彼女は投げやりで、叔母や3人の従兄弟にも排他的な態度をとって彼らと最初馴染めない。
 だが屈託がなく純真な従兄弟たちとの交流のなかで、そしてロンドン郊外の豊かな自然に癒され、彼女はしだいに心を開き表情に明るさも出てくる。やがて長兄エディ(ジョージ・マッケイ)と恋に落ちる。エディは動物と会話が出来るようだし、デイジーの頭の中の声も読み取る物静かなエディと同年齢の少年だ。


 そんなある日、ロンドンでテロリストによる核爆発が発生。第三次世界大戦勃発に伴う戒厳令が敷かれるなか、デイジーたちは突如現れた軍に拘束され、男女別に離ればなれになってしまう。軍の管理下の施設に連れて来られたデイジーは、末っ子の従姉妹パイパー(ハーリー・バード)と共に、エディとの再会の約束を胸に秘め施設を脱出。だが、その荒廃しテロリストたちの徘徊する世界に身を投じた彼女の逃避行には厳しく悲しい試練が待ち受けていた……。


 こんなストーリーです。ガーディアン賞(児童文学)に輝いたベストセラー小説が原作であるらしいのだが、テロリストによる核爆発とそれに続く第三次世界大戦という設定の描き方がちょっと説得力にかける。でも、そういう思いのある中、シアーシャ・ローナンの孤軍奮闘の演技に感心しました。彼女は2007年公開の『つぐない』で13歳という史上7番目の若さでアカデミー助演女優賞にノミネートされたというのも納得(「ハンナ」での演技も印象的、そう言えば「グランドブダペストホテル」にも出ていた。)。周りの状況の変化に応じてヒロインを繊細に演じ分けていく演技力は素晴らしい。反抗的で神経質な少女の表情が優しい顔になり、戦争になって生き抜くための厳しい強い女の表情。そして最後はエディを見守る母親のような表情。美しい!シアーシャ・ローナンゆえの「心に残る映画」です。



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