心に残る映画19「そこのみにて光輝く」


 「そこのみにて光輝く」は、三島由紀夫賞候補にもなった佐藤泰志(1949年函館生まれ)の同名小説の映画化作品。佐藤泰志は三島由紀夫賞のほか複数回芥川賞候補にもなったが結局受賞しないまま1996年に自殺したと聞く。この映画を見るまで全く知らない作家だった。
 この映画作品はキネマ旬報のベスト1に選出された。しかし、私は主演の池脇千鶴は好きでないし、内容も暗そうなので敬遠していた。偶然、心の旅の火野正平さんそしてあがた森魚さんが出演しているのを知り見てみようという気になった。


 映画のロケ地は、佐藤泰志の故郷である函館市。でも、映画で描かれる風景は私が抱いている函館の清潔で明るいイメージと全く違う。季節は夏なのは分かるけれど暑苦しく、じとじとしていて北海道とは思えない。そんな風景の中、不器用な若者が人生を割り切れず状況に引きづられ、過去のしがらみをシェイクも出来ず、社会の隅の方で希望のない人生を、もがきながら生きている。そんな「暗くて」、「痛々しく」、「見ていて腹立たしく」、でも「そうとしか生きようがないんだよなぁ」という思いを持つ映画だ。

 達夫(綾野剛)は採石場で発破を仕掛ける仕事をしていたが、若い部下を事故で死なせてしまったと自分を責め、、仕事を辞めて酒浸りの自堕落な生活を送っている。パチンコ屋で知り合った拓児(菅田将暉)に誘われるまま拓児の家に行く。そこは海辺に建つバラック。中には脳こうそくで寝たきりの父親と疲れ切った母親、そして姉の千夏(池脇千鶴)が暮らしていた。達夫は千夏に惹かれるが、偶然入った場末のスナックで家族のために売春行為をしてお金を稼いでいる千夏の夜の仕事を知る。また脳梗塞の後遺症で、押さえのきかなくなった父親の性欲処理をする千夏を目撃もする。そんな二人にラブストーリーが展開するのかと思うのだが、状況はそれでも動いていく。


 達夫が自分の身の上を語ると千夏が言うセリフが印象的。「そんな自分だから私みたいな女でもいいかなと思ったの?」ほとんどセリフのない達夫だが、「もうそんなことやめろや」と一言。突き放す千夏。でも達夫は諦めず寡黙に行動する。千夏の弱みを握りセックスを強要する腐れ縁の不倫相手(高橋和也)に直談判に行き、さんざん殴られる。それを知った千夏が初めて笑顔を見せる。拓児も連れて仕事に復帰しようと決意する達夫。これからうまくいくかなと思う矢先事件が起きる。


 人生を捨てた男と人生を諦めた女、そんな社会の底辺の隅っこで不器用に生きる彼らにはやはり幸せな結末なんてないとストーリー展開的には思わせるが、夜明けの海岸に立つ二人に仄明るさが見え希望も見えるエンディング映像となる。


 40年くらい前によく見たATGの作品を思い出した。あの頃の作品では、若者たちは不条理な現実社会を否定しその前でもがいたが、成長期の社会自体が持つ時代の明るさに引きづられ作品自体にはなんとなく仄明るさがあった。一方先が見えず世の中が縮んでいく現代に作られた「そこのみにて光輝く」の仄明るさはそれじゃなんなのだろう?達夫と千夏の二人の関係の中でのみ仄明るい光が輝いているのだろう。愛というものの本質(「関係の絶対性」)がそこにある。好きではないけれど心に残る映画だった。

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