心に残る映画18「ジャージー・ボーイズ」



 2006年トニー賞でミュージカル作品賞を含む4部門を受賞した同名の人気ブロードウェイミュージカルを名匠クリント・イーストウッドが映画「ドラマ」化(ミュージカル映画にありがちな不自然な入り方の歌唱シーンがない)した作品。1960年代に世界的な人気を誇った伝説の米ポップスグループ「ザ・フォー・シーズンズ」の誕生と栄光の軌跡そしてその影の部分であるグループ内の確執や金銭トラブルを「シェリー(Sherry)」などのヒット曲にのせて描き、後半はリードボーカルを務めたフランキー・バリのソロ時代の代表曲として知られる「君の瞳に恋してる(Can't Take My Eyes Off You)」の誕生秘話を、彼自身の男、夫、父親としての生き様と絡ませ描いている。タイトルの『ジャージー・ボーイズ』はフォー・シーズンズのメンバー達がニュージャージー州出身であることに由来している。


 ニュージャージー州の貧しい街で生まれ育った4人の青年たち、フランキー・バリ(ジョン・ロイド・ヤング)、ボブ・ゴーディオ(エリック・バーゲン)、ニック・マッシ(マイケル・ロメンダ)、トミー・デヴィート(ヴィンセント・ピアッツァ)。彼らの独白にあるように、その掃きだめのような街から出るためには、「1兵役に行く事(でも死んで帰る恐れあり) 2マフィアに入ること(これもその恐れあり) 3有名になること。」しかなかった。彼らは2と3を選んだ。バンドをやりながら窃盗をして刑務所に入ったりでほんとに有名バンドになって街を出て行けるのかなと心配する展開が続く。


 そのうえ監督の描く60年代の映像が凝っていて当時のカラーグラビアを見るようで、俳優たちのファッションだけでなく顔立ちもなんか当時の人がタイムスリップして現れてきたようだし、フランキーの声もファルセットという声だろうけれど最初正直言って好きになれず、この映画どうなんだろう?評価しづらい映画だなと思いつつもなぜか映像に見入ってしまうのである。そして「シェリー」が歌われる頃、「このグループ、フォー・シーズンズってそう言えば知ってる」と納得する頃には、映像と音楽に引き込まれてしまっていた。


 もちろん音楽の部分だけでなく、ドラマとしての部分に監督の見事な演出力を見ることが出来る作品です。そこには登場人物に対する監督の変わらぬ優しい視線があり、その包み込むような人間としての大きな力量にも感心させられる。例えばフランキーはなぜ、トミーの作った借金をドサ回りまでして支払う決意をしたのか?どうやってフランキーは娘の死から立ち直ったのか?といったフランキーの人生の光の部分よりも影の部分に重きをおいて描き暗く重いテーマになりがちなところを、絶望しない勇気が重要なんだというメッセージを力みなく織り込むことにより、見る者も前向きにさせてくれ、安心して見ることができる。
 そして見終わった後、とてもいい気分そして穏やかで暖かな気分になれる映画です。やはりクリント・イーストウッドは名監督だなと思う。


 圧巻はやはり最後のシーン。夜街灯が灯った路上で四人でハーモニーを奏でるシーンから入り、場面が明るくなったかと思うと、キャスト全員が映画の出番の衣装のままで歌って踊るブロードウェイの舞台を想像させるようなレビューが始まります。なんとその中でマフィアの親分役をしてたクリストファー・ウォーケンもすまし顔で歌って踊ってるんです。思わず嬉しくなりました。見る方も高揚してきてこのシーンこのまま何時間でも続いて欲しいなと思いました。(余談ですが、監督のイーストウッドも画面に飛び出してきたかったのか、別のシーンではあるけれど一瞬TVに若き日のイーストウッドが映ります。監督もこの映画楽しんで作ったのではないでしょうか。)



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