心に残る映画17「リトルフォレスト夏/秋」「リトルフォレスト冬/春」



東北のとある盆地の底にある集落「小森」が舞台。いち子(橋本愛)は古びた安普請の一軒家に住み自給自足の生活を送っている。映画は夏、秋、冬、春の順に進んでいく。どうも夏編・秋編・冬編・春編と4部構成の作品のようで、それぞれの作品の始まりに、いち子の同じ内容のナレーションが入る。こんな内容〜「村の中心までは自転車で30分、冬は雪のため徒歩で1時間半かかる。村の人もちょっとした買い物がある時は隣町に半日かけて行くことになる」。季節ごとの村の美しい風景を背景にいち子が自転車を走らせるシーンがナレーションと重なる。


夏&秋編が先に公開されてDVDで見て、冬&春編は劇場で見た。ドラマティックな展開があるわけではない。画面には農作業と季節の食材を使った料理のシーンが淡々と続く。dish1「薪ストーヴの余熱を利用したパン」、dish2「甘酒」、dish3「グミのジャム」と、彼女の手際よくでも丁寧に手をかけた調理シーンと美味しそうに頬張るシーンを見ていてとても気持ちが良い。見る者を幸せにしてくれる。dish4のシーンだったか自家製のウスターソースやヌテラの調理シーン以降そのレシピ伝授してくれた 母・福子 ( 桐島かれん )が回想シーンで何度も出てくる。


 この辺りから気になっていた疑問がふつふつと湧いてくる。結構この映画ミステリアスな作品でもある。母・福子はいち子が高校卒業の直前の5年前に失踪している、何故?お父さんは?ハーフの桐島かれんが母親役を演じているため謎はよけいに深まる。いち子自身も高校卒業後一時都会に出たが馴染めなくて生まれ故郷に帰っているが何かから逃げていると感じている。何から逃げているのか?

そして一番疑問に思ったのは、こんな美少女が一人で住んでいたら評判になって人が集まってくるのでは?同時期に「ウッドジョブ」を見ていたのでなおさら。でも彼女の回りにやってくるのは、近所のおばさんたちを除くと、やはり都会から戻ってきた分校の後輩ユウ太(三浦貴大)と同級生のキッコ(松岡茉優)くらい。また後輩ユウ太を夜中に呼び寄せ新作料理を二人で試食するのだが、う〜ん性的な事は何も起こらない。最近の若者ってそうなの?そもそも自給自足生活とはいいながら電気代等必要な現金収入はどうしてるの?といったちょっと現実的な突っ込みもしてみたくなる部分もある。(後編の冬・春編でそういった謎が解き明かされると期待したのだが、、、明快な答は用意されない。)


 そんな違和感を少し感じながらもこの映画の映像の美しさに引き込まれる。そこには北アルプスの絶景があるわけではないけれど、畦道の残る田んぼがあり、あせびが実をつける森があり、木漏れ陽のきらめく沢がある。そうやさしい里山の風景が広がる。見ていてそれだけで幸せな気持ちになる。
 幸いにこういった美しい日本の原風景ってまだ残っている。一方で圧倒的に破壊される危機も我々は経験した。制御不能の科学文明って人類を不幸にする事を我々は学んだはずだ。幸せってなんだろう?いち子の生活にある文明の利器って(風景として)ラジカセが見えるくらいでテレビもインターネットもあれっ、洗濯機も冷蔵庫もなかったのでは?ストーブも薪ストーブ。そんな生活の中でも人は充足して生きて行く術を持っている。そして毎日繰り返しの生活のように見えても「螺旋」のように一段一段確実に成長しているのだと冬編・春編に出てくる母・福子の手紙が語っている


 この映画を見て、定年退職を機に自分もこんな田舎暮らしがしたいなぁと知人に言うと、「あの映画ってキレイすぎてかつスタイリッシュでなんか嘘っぽい。第一農業ってその環境で生まれ育って昔から受け継がれてきたノウハウがあってできるんであって君には無理だね」と一蹴されてしまった。劇中でユウ太も語っているように、自分も「カラッポな言葉」使う「都会のうすっぺらな人間」なのかもしれない。憧れるだけで知人の言葉を言い訳にして行動を起こさない言葉だけの人間なのだから。


 しかし先日四国羅針盤っていう地元放送局が製作している番組で、北海道の札幌から移住してトマト農家をしている夫婦の紹介があった。高校卒業後「社会のゴミ」のように生きてきた40過ぎの男性とシングルマザーの年上の女性。彼女が働くスナックで知り合った二人が、人生をやり直そうと徳島の山奥でトマト農家を始めるという内容。農作業は全く未経験の彼らが日本一のミニトマト栽培を目指す。彼らの作業服ってmontbel、現代の農業って結構スタイリッシュにやられているのだ。いち子の生活って嘘っぽくなんてないのだ、彼女のスタイルなのだと思う。映画の最後のシーン、いち子が神楽を舞う。美しく神々しいうえに力強い。自分も評論家を脱皮して実践者にならないといけないなと思った。


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