心に残る映画12 「きっと、うまくいく」


 評価の高い作品なのですが、インド映画ということで、製作年は2009年ですが、長らく敬遠していた映画です。インド映画というと、「踊るマハジャ」の"歌って踊る"イメージが強く、加えて娯楽要素てんこ盛りというアクの強さに、予告・宣伝フィルムを見ただけで入っていけないなぁというのが正直な思いでした。それと同じアジア人なのだけど、アーリア語族系の彫の深い顔立ちを持つインド人の皆さんの思考と感性に感応できるのか不安でした。そして上映時間170分、3時間近くの作品です。耐えられるのかこれも不安でした。

 「きっと、うまくいく」も上のポスターを見てわかるように、なんとなく苦手な「歌って踊る」コメディー映画の予感。原題の「3 Idiots」は、3ばかという意味。その予感が深まったのですが、スティーヴン・スピルバーグの「3回も観るほど大好きだ」という言葉に後押しされて観た次第です。
 DVDで作品を見終わって、幸せなそして懐かしい気分に浸ることが出来ました。この作品個人的に大好きな映画でしたが、皆さんにも自信を持ってお勧めできる作品だと思います。特に人生に立ちすくみ、あるいは暗い部屋で一人自分を凝視しているあなたにお勧めします。私もこれからはそういった時、「AAL IZZ WELL」(All is well )の言葉を思い出すと思います。
 そしてこの「きっと、うまういく」という作品は、映画の作りとして傑作だと思います。170分が退屈させる間もなく、あっという間に過ぎた感じです。作品の構成力が優れているのがその理由だと思います。まず脚本が練られていること、そして4年間の大学生活パートと大学卒業後行方不明になった親友を探すミス テリーパートのバランスが絶妙であること、また各所に散りばめられたエピソードが最後につながり見る者の心をほんわかあるいは爽快にさせてくれる。そしてラブロマンスと控えめのミュージカルの娯楽性と同時に競争社会への風刺やほんとの幸せとは?友情とは?といったテーマをさりげなく盛り込むその構成力の確かさには監督(ラージクマール・ヒラーニ )の大きな力量を感じます。

 物語は、行方不明だった大学時代の親友ランチョー(アーミル・カーン)の居場所が分かったとの連絡が携帯電話に入り、ファルハーン(マドハヴァン)とラージュー(シャルマン・ジョシ)が母校に向かうところから始まり、10年前の名門工科大学ICEへの3人の入学シーンそして名物学長の”ヴァイラス”との出会いに繋がっていきます。その後物語は、大学生活を描くパートと、卒業後突然姿を消したランチョーの謎を追うパートが交互に描かれます。
 家庭の期待を受けて入学してきたファルハーンとラージュー、そして自由奔放な天才ランチョーの三人は寮でルームメイトとなります。家庭の経済環境も全然異なる3人ですが、何をするにも一緒の3人はしばしばバカ騒ぎをやらかし、学長や秀才だったチャトル等から"3 idiots"(三バカ)と呼ばれ目の敵にされています。
 この作品の主人公は間違いなくランチョーです。彼は社会のシステムに縛られることなく、自分が信じた思いを行動に変え、寮長に、学長に、つまり大人たちに意見をぶつけていきます。そのまっすぐな瞳が魅力的です。彼にも本当は自信はなくて、行動に移す時不安で胸に手を当て呪文を唱えます。「AAL IZZ WELL」(All is well =うまくいく)と。そしてその勇気の発露は、友情、そして人生への素直な愛なのだと思います。

 そのランチョーの行動は、産まれた瞬間からエンジニアにすると決められたが本人は工学よりも動物の写真撮影の方が好きというファルハーン、そして家族の生活を背負っているため常にプレッシャーに苛まれお守りの指輪や信仰を手放せないラージュー、この二人の心を解放していきます。そしてランチョーはいつしか友だけでなく、凝り固まった大人たち(学長やファルハーンの父親など)の心をも融解していく、このシーンがとてもいいです。感動的です。(この学長のキャラクターとても好きです)
 そしてこの感動シーンのあと、卒業式を終えたランチョーは、一人学校を去って行き10年間行方不明となっているのです。最後にその秘密が明らかにされ、ハッピーエンドの大団円が待っています。

 冒頭で、人生に立ちすくんでいる人にもお勧めしますといいましたが、「こんなつくりもののようにリアルな人生はうまくいかないよ」って叱られるかもしれません。大人になった私たちは、得体のしれない何かに追われるように忙しく単調な日々を過ごしている。そこには何の感動もなく逆にストレスがたまる一方の生活かもしれない。そんな人生がもう何十年続いているのかもしれません。生きる意味さえわからなくなっているのかもしれません。そんな時この映画を「きっかけ」に自分の人生にもあった何か大切な温かいものを思い出していただきたい。あなたの心の奥に暖かい灯がともるはずです。もう少し生きて行こうかな、もう少し人にやさしくしようかなと思えるはずです。

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