心に残る映画10 「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命」




 原題は、「THE PLACE BEYOND THE PINES」。物語の舞台となっているのは、ニューヨーク州スケネクタディという人口約6万人の街。スケネクタディとは原住民のモホーク語で、「松の木々の向こう側」という意味があるらしい。原題はその英語訳。DVDを手に取った時、この作品名はいったい何なんだ?!安易なタイトルだなと思ったのだけど、印象的なラストシーンで映画が終わり、エンドロールの曲が流れ始まる頃、このタイトルしかないと思った。余韻の残るタイトルです。

 公式ホームページでは、「犯罪(クライム)ドラマ」と紹介されていて、それ以外の予備知識もなく軽い気持ちで見始めたのだけれど、しばらくしてこれはただの犯罪映画ではないと実感。141分という長尺の作品にも拘わらず最後まで無駄なシーンは一切なく、その映像と音楽に牽き付けられる。(監督・脚本はデレク・シアンフランスという新人監督だが、その作品構成力は新人監督とは思えない。次回作が待たれる。)

 余韻に浸りながら、アンビバレント(ambivalent)という言葉を思い浮かべていた。「両義的・両価的。一つの物事に対し、相反する価値が共に存し、葛藤する状態のことをいう。二律背反。」と辞書では定義されている。



 この作品は3部構成となっており、1部の主人公はルーク(ライアン・ゴズリング)。移動遊園地でバイクのショーを生業としている天才ライダーのルークは、外見からしてアンビバレントだ。金髪で端正かつ甘いマスクの美青年だが、身体は全身趣味の悪いタットゥーが彫られている。そしてチェーンスモーカー。まず冒頭のルークの登場シーンでその外見の落差に戸惑うのだけれど、力のある演出にその違和感も忘れ画面に惹きつけられる。

 ルークはそこでかつての恋人ロミーナ(エヴァ・メンデス)と再会し自分に息子がいることを知り父性に目覚める。その父性愛は真実なのだが、ロミーナの現在の夫コフィを工具で殴り大怪我を負わせてしまう。そして3人での生活を夢見て、街で出会った修理工の男と銀行強盗を行うようになる。

 ルークの表情・行動は一方では優しく愛情に満ちている。息子の洗礼式をひっそり立ち会い涙するシーンや親子3人で記念写真を撮るシーンが印象的。しかし、一方では短絡的で刹那的そしてイリーガル。何度目かの銀行強盗を単独で実行し失敗して新人警官エイブリー(ブラッドリー・クーパー)に射殺されてしまう。ここで生のルークは画面から消えてしまうのだけれど、彼の印象は消えることなくラストシーンに繋がります。



 2部の主人公はエイブリー。裁判官の父を持ち大卒のエリートにも拘わらず正義の実践者たる警官を自ら志望した清廉で理想家だったはずだが、検事の尋問に嘘をつき保身を図る。ルークに撃たれると恐れ職務手順も忘れ先に発砲したことをエイブリーは隠す。しかし同時にその罪悪感に苛まれる。ルークにも家族があり自分の子供と同年齢の子供がいることを知ると、なおさら罪悪感が募り愛する自分の子供を見ることも負担になる。そんなエイブリーの心の二面性が丁寧に描いている。

 また、その後のエピソードでは、悪徳警官仲間に脅かされながら不正に手を染めるけれど、やはり署内に巣食う不正が許せず告発するといった正義感を見せる。しかし最後は、父親のアドバイスに従い、えげつない方法で告発を成功させ、それを出世の材料とする野心家でもある。ここにもエイブリーの両義性が表現されています。



 人間って、いつも清く正しく美しくそして誠実に愛情深く清貧にそしてそれらに自信を持って生き続けられるものだろうか?自身の人生を省みて出来ないなと思う。ルークとエイブリーのアンビバレントな言動を見ていて私は身につまされてよく分かる。分かるゆえに嫌になる部分もあるけれど、ある意味共感を持って二人を受け入れざるを得ない。ルークが画面から消えた後もラストシーンまでその残影が残り続けていると感じられるのもその共感ゆえかもしれない。多くの人間って内なる矛盾を抱えて悶え苦しみ、そして哀しみに沈むことだってあるだろうし、時にはずるをすることだってある。人生を生きていくうえで、不恰好だと分かっていながらも「こうとしか生きようのない人生がある」のかなと思う。

 そして最終章の3部。舞台は15年後。ルークの息子ジェイソン(デイン・デハーン)とエイブリーの息子AJ(エモリー・コーエン)が同じ高校で出会ってしまう。こんなところが、日本語の「宿命」というサブタイトルがつけられた理由だろうか。ジェイソンは、15年前の事件と実の父親ルークを知ることとなり、エイブリー&AJ親子と対峙することとなる。

 そして最後のラストシーン。ジェイソンは、HONDAの古いバイクに乗り、 錦繍の美しい季節、ひとり「THE PLACE BEYOND THE PINES」に向け「スケネクタディ」を去って行く。それはルークの人生・後姿と重なるが、そこにはルークにはなかった希望と安らぎがあるように私には思える。そしてエンドロール。エンドロールを最後まで見たのは久しぶりです。そこに流れる曲がいいです。


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