心に残る映画7 「二つのギャツビー」


 ディカプリオ主演の「華麗なるギャツビー」をDVDで見た。アメリカ文学史上最高の名作と言われるF・スコット・フィッツジェラルドの「THE GREAT GATSBY」を『ムーラン・ルージュ』のバズ・ラーマン監督(脚本も手がけている)が映像化したもの。

 フィッツジェラルドの「グレート・ギャツビー」は文庫版で確か高校生の時読み、レッドフォード主演の「華麗なるギャツビー」(1974年製作)も劇場で見た。そして最近村上春樹新約でも読み返している。そして今回のディカプリオ主演の「華麗なるギャツビー」。原作を読み映画も見ているのだけど、ディカプリオ版ギャツビーを見ていて不思議なことに結末がクリアに思い出せなかった。そうしかならない展開なのだけど、ラストまで見てそうだったなと思い出した。


 逆に富豪のトム(ジョエル・エドガートン)の行動を何故かクリアに記憶していた。トムはスノッブという言葉がぴったりの男、というよりアメリカナイズされより俗物として描かれている。そのトムは上流階級出身の美しい妻デイジー(キャリー・マリガン)を裏切り自動車修理工の妻マートル(アイラ・フィッシャー)と浮気をしている。デイジーと比べて美しさではとても敵わないし野卑で通俗的、なんでマートルをトムは愛人に?と不思議に思った記憶が鮮明に蘇った。

 トムが愛人を作るのは俗物なる所以かもしれないが、人間って両義的な存在なのだと思うとトムの行動も頷ける。ギャツビーだってデイジーに対しピュアな恋心を持ち続けながら、一方裏の世界で闇の商売で巨万の富を得ている人物。我が身を顧みてもそうなのだが、人間ってアンビバレントな存在なのだと思う。それゆえ辛い人間ドラマが生まれる。

 このディカプリオ版ギャツビーを見ていてもうひとつ印象に残ったことがある。デイジーがギャツビーに叫ぶセリフである。

 「ああ、あなたはあまりに多くを求めすぎる!」("Oh,you want too much!")

 ギャツビーはデイジーに、愛していないトムと別れ自分と再婚して欲しいと求めるのだが、デイジーもそれには同意。しかしギャツビーは別れる理由をさらに求めるのだ。次のセリフが繰り返しディカプリオから発せられる。

 「君はこの男を一度も愛したことはないんだ」("You never loved him")

 ギャツビーは、自分へのパーフェクトな愛を過去に遡ってまでデイジーに求める。このギャツビーの思いに答えるデイジーのセリフが「「ああ、あなたはあまりに多くを求めすぎる!」である。

 この恋は成就しないなと予感させられる。これって「愛」なのだろうか?「執着」のように私には思える。完璧なものを求める心はどうしても完璧でないことを疑う。その完璧を求める執着心は完璧でないことを探り出すまで安心出来ないのだ。それも人間の哀しい性(さが)のなせる愛の形なのだろうか?。

 そして、トムの巧みな言葉に乗せられ逆上したギャツビーは一瞬裏の一面を想起させる恐い形相を見せてしまう。それを見たデイジーの怯えた目がすべてを告げていた。そしてその後の悲惨な事件。



どうしてもやはりレッドフォードのギャツビーと比較してしまう。原作に忠実に映像化しているのは、ディカプリオ版の方である。原作にも繰り返し出てくる"You never loved him"というセリフもレッドフォード版ではサラッと流している。ディカプリオ版では人間の二面性という事実そしてパーフェクトな愛の形を原作以上にディカプリオの怪演で描いている。

 レッドフォード版の方は、脚本をフランシス・フォード・コッポラが担当しているのだけれど、かなり原作を改変している。デイジー役にミア・ファローを配し、事件後安逸な生活に戻り何事もなかったようなお金持のお嬢さんで、呑気に我儘にあっけらかんとして海外旅行に行こうとするデイジーを描いている。そのことによりギャツビーの哀しさがより一層際立つ。



 「THE GREAT GATSBY」は愛を取り戻し成就させようとした8年間のギャツビーの悲しいはかない恋の物語だとシンプルに理解すれば、レッドフォードの版の方がその雰囲気がよく出ていて、名文とほまれ高いフィッツジェラルドの原作の香りも感じられる。原作を結構改変しているにも関わらず。レッドフォードの抑制のきいた演技のせいかもしれない。



 ただ、ディカプリオの「華麗なるギャツビー」のデイジー役の キャリー・マリガンはミア・ファローと比べて数段可愛く儚く美しい。ギャツビーの心情=愛する女性の神秘化を感じられた。彼女の我儘なら許せるのかなと思う。映画を見る我々はギャツビーを思うが、ギャツビー自身はデイジーを思っている。ディカプリオ版は後者の視点で製作されたのだろう。




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