心に残る映画4 「I am Sam アイ・アム・サム」


 この作品、DVDで見ていて弁護士役の女優さんがミッシェル・ファイファーに似ているなと思って見ていた。見終わってwebでデータを見てみるとやっぱりミッシェル・ファイファーだった。確かもう50歳半ばのはずなのにいつまでも若くて美人なんだと改めて感心した。すぐ誤解に気づいた。この作品の公開年は2001年だった。10年以上前の映画だった。しかし、描かれる風景(ファッションや色んなツールなども含めて)は現代と変わらない、それで新作を見る感覚で鑑賞してしまった。恥ずかしながら未見だったわけは、内容が、知的障害を持つ父親と、幼いけれど聡明な娘との純粋な愛を描いた映画だから。 こういう内容の映画はなんとなく避けていたので無意識に見逃していたのかもしれない。



 知的障害のために7歳の知能しか持たない父親サム(ショーン・ペン)は、スターバックスのウェイターとして働きながら一人で愛娘ルーシー・ダイヤモド(ダコタ・ファニング)を育てていた。ルーシーの母親は、病院でルーシーを出産するとすぐに赤ん坊をサムに預け姿を消してしまうのでびっくりするのだが、、、(あとで母親はホームレスだったと解説が入る)。ここからサムの悪戦苦闘の子育ての様子が描かれるのだけど、二人は隣人で外出恐怖症のアニー(ダイアン・ウィースト )や同じ障害を持つビデオ観賞会の4人の仲間そしてスターバックスの店長たちといった理解ある人々に囲まれ幸せに暮らしていた。

 しかし、ルーシーが7歳になり小学校に通うようになると、その知能は父親を超えてしまう。ルーシーの7歳の誕生会の日、ある小さな事件が起こってしまい、家庭訪問に来た児童局のソーシャルワーカーによってサムは養育能力なしと判断され、ルーシーは施設に保護されることになる。ルーシーの親権を取り戻したいサムは、エリート女性弁護士リタ(ミシェルファイファー)のもとを訪ね法廷で闘う決意を固める。リタは「負けを知らない」敏腕弁護士で豪邸に住みポルシェに乗りそのうえ美人、でも夫とはすれ違いの生活そして息子には疎まれ心が満たされることがなく、いつもイライラしてストレス解消のため人目を避けてジェリービーンズやマシュマロをつまみ喰いしている。リタも問題を抱える女性なのである。



 そんなリタがサムの代理人になる経緯は映画を見てのお楽しみ(ドラマって散文では説明しづらいところをいくつかのカットで上手く表現するので感心してしまう。)。 リタは次第にサムに真剣に向き合うようになる。凄腕を法廷で見せ、サムの友人たちも証人として裁判に協力するのだけれど、どう考えてもサムには不利な裁判。結局、ルーシーは里親のランディ(ローラ・ダーン)夫婦と当面一緒に暮らすことになる。その状況でもサムとルーシーは親子の愛情を確かめ合い、絆を深めていく。あらすじはこんな感じです。



 この映画に出てくる人に悪人は一人もいないと思う。サムの隣人たちそしてリタは勿論、里親のランディも心からルーシーを愛しているし、サムのことも受け入れる寛容な女性である。二人を引き裂くソーシャルワーカーだって法廷での検事だってルーシーの将来を思って彼らの「正義」を実行しているのだ。しかし「社会正義」と「愛情」が法廷でぶつかれば「社会正義」が勝ってしまうという現実がある。子供の人権を護ろうとするアメリカにおける法の正義は、その歴史的経験則に裏打ちされた力強さと非情さを併せ持っているのだと思う。
 しかし映画のラストは、たぶんこの作品に登場する全ての人が了解できるハッピーエンドでした。その内容はこれも見てからのお楽しみ。



 この作品、映画評論やHPのユーザーレヴューを見ると賛否両論が分かれるようだ。概ね高評価なのだけど、悪い評価をつけた人は極端に評価が低い。「あざとい」「障害者を主人公にしたお涙頂戴の商業映画」「説明不足でお伽噺」「高評価の人は子供を育てた経験のない人?」ととても厳しい。

 因みに私は子供を3人育てた経験のある人間だけど高評価です。確かにお伽噺と言われればそうなのかもしれないのだけれど、この我々が生きている世界、完璧な人などいなくて人それぞれ悩みを持ちキズを持つ人たちがその人なりの優しさとか愛情とか善意を人のために示すことにより、この危うい世界がなんとか成り立っている(この映画のもう一つの重要なテーマでもあると思う)のじゃないかと思う。そんな風に思える貴重な自分の体験をこの映画を見て私は久しぶりに思い出した。誰しもそんな自分の心に眠っている優しさや愛情とか善意を気づかせてくれるエピソードを持っていると思うのだけど、どうでしょう?そんな意味でこの作品は素敵な映画だと思います。



 素敵と思える理由がもう一つ、シェリル・クロウ、エイミー・マンらによるカバーヴァージョンだけれども、ビートルズの楽曲が使われていること。ビートルズのメロディが、その歌詞が、映画に寄り添うように流れ、とても素敵だった。ビートルズへの監督(ジェシー・ネルソン)のこだわりは、障害者施設をリサーチしたところ、知的障害者の多くがビートルズが大好きらしいということを知ったからだそうで、監督の愛情がそんなところにも現れている。

 最後に、ショーン・ペンの演技が素晴らしいのだけれど、私はサムの仲間4人を演じた無名の俳優さんたちの演技がもっと凄いと思った。ショーン・ペンは素晴らしい演技なのだけれど「役」を演じていると分かってしまう。しかし仲間4人は無名故かもしれないけれど障害者の方々がそのまま出演しているように思える。(蛇足でした。)


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