2002.12.28

松山のディープな夜


 例によって友人のK氏と共通の友人S氏とある料理屋で忘年会をしたあと、K氏の提案で松山のディープな夜の世界を散策することなった。
八坂通りの外れ千舟町の一筋手前に旧夷子町という通りがあり、八坂通りと交わるあたりには夜な夜なポンビキのおばちゃん(おばあちゃん)たちが出没する。「お兄さん遊んでかない」と声をかけてくるのだけど、K氏はそのポンビキのおばちゃんたちと仲が良い。
 「情報収集」と称して飲みに出るたびにおばちゃんたちと世間話をしているうちに馴染みになったようだ。といってもポンビキのおばちゃんの本来の稼ぎには貢献していないようだが。「情報収集」している時、一緒に飲もうという流れになって、おばちゃんに紹介された店が、忘年会の二次会に立ち寄ったAという店である。
 私は2回目だけどS氏は初めての店。結構緊張する。K氏は出来上がっているせいもあるけれど馴染んでいる。カウンターだけなのだけれど、そのカウンター席をカーテンが囲んでいる。
 この店には表の顔と裏の顔があって、表向きはスナック、裏では店の子が売春をやっている。裏の商売の方が実は本業なのだろう。スナックで飲む分にはいたって安い。1杯500円で飲ませてくれる。
 カーテンは、売春の方のお客さんが顔を見られないようにとのお店の工夫である。K氏が一度昼間にぎやかなところでばったりここのママさんに会ったところ無視されたそうであるが、聞いてみるとそれもママさんの言ってみればお客さんを慮っての行為だったそうである。
 その日はまだママは来ていなくてママの実の娘と店の女の子一人、カウンターにはママのだんなでオーナーが取引相手を連れて難しい話をしていた。だんなは勿論ヤクザやさん。その相手もその筋の人らしい。
 いつもは、元暴走族のお兄ちゃんがむすっと一言も喋らず、ママに小言をいわれながら座っている。
 そんな店である。店の女の子は、K氏の表現を借りれば「ブスでデブでバカ」なんだけど可愛い。そう屈託がない。店の雰囲気に馴染んでしまえば楽しめるのだろうけれど、S氏と私は完全に浮いている。カラオケで「かなしくてやりきれない」をリクエストするがないので、「イムジン河」を歌う。

 そうこうしていると、時々カーテンが動き人の通る気配がする。本業のお客さんが入ったのだろう。どんなお客さんが来るのか、この店の女の子たちはどうして売春をするようになったのだろうという興味もあるが、見ることも出来ないし、聞くことも出来ない。
  K氏の聞いたところによると、ママさんの前の亭主はろくでもない暴力亭主で、家を出て娘と今日食べるものもないようなどん底の時、今のヤクザやさんのだんなと知り合って再婚して、店も出せてご飯も満足に食べれて幸せだという。娘も新しいお父さんになついているらしい。
 いつの時代の話かなと耳を疑うのだけれど、ほんとうらしい。お店の女の子の境遇も似たり寄ったりらしい。そう言えば、S氏はヘルス好きで毎週のように通うらしいのだが、相手をしてくれる女の子の境遇を聞くと、親の借金の返済のために働いているとか、好きになった男の借金のために働いているといった境遇らしい。
 彼女たちって、ずるくなくて、とてもやさしいらしい。S氏は下半身不随の障害者なのだけれど(敬虔なクリスチャンでもある)、ヘルスの女の子は彼をお風呂に抱きかかえて入れてもくれるという。このスナックの女の子たちも「ブスでバカでデブ」なんだけれど屈託なく可愛くやさしい。
  K氏によると、マグダラのマリアだという。確かに最後の審判でguiltyとされるのは自分の方かなとわが身を振り返って思うのである。


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