2000.10.14

 友人K氏と田舎料理末広の前で8時20分に待ち合わせ。彼はいつも自転車でやってくる。待ち合わせ場所を変えると、帰る時どこに自転車を置いたのか忘れてしまうので、待ち合わせ場所はいつも末広前と決まっている。
 少し早く着いてしまったので、近くのコンビニでデジカメ用の単三電池を購入する。近々ホームページに「居酒屋&映画放浪記」をUPする予定なので、今日は取材用のデジカメを持参した。

 定刻にK氏が到着。最初の店はK氏のリクエストで「久保」に決まる。この店は、松山居酒屋放浪を始めて見つけた店の一つである。2年前ならまず入らなかった店である。

 久保さんは60過ぎと思われる女性。K氏はここによく昼食を食べにくるらしいのだが、最近は営業時間を夜に移したらしい。しかし何も注文しないのに出てくる肴は依然として昼の定食のおかずである。とまどいながら出された冷や奴と納豆そして焼き鯖をビールを飲みながら食べる。久保さんは若い頃スナックをやっていて、驚いたことに、私の叔父がよく通っていたらしい。松山は狭い。久保さんは、年をとっても可愛いというか憎めないそんな女性である。

 K氏と私の話題は、最近までルナティックで上映されていた市川雷蔵映画祭のことになった。私は、「大菩薩峠」3部作と「ある殺し屋」を見たのだけれど、「大菩薩峠」と「大菩薩峠 竜神の巻」は三隅研次監督作品、「大菩薩峠完結編」「ある殺し屋」は森一生監督作品。監督の力量がはっきりと分かる結果となった。雷蔵の魅力はなんと言っても様式美につきると思う。彼の発する役者としてのオーラ。そのオーラに観客は圧倒される。決して上手い役者だとは思わないし殺陣も片岡知恵蔵や大河内傳次郎と比べると迫力がない。同時代の役者でいえば、勝新太郎の方が殺陣は遙かに上手い。雷蔵の魅力は動よりも静にある。映画そのものよりスチルカメラで切り取られたポスターに彼の魅力を感じてしまう人が多いのでは。そういった雷蔵の魅力を三隅監督はよく生かした映画づくりをしている。「ある殺し屋」で森監督はハードボイルドを目指したのだろうが、今となればなんとなくのんびりした作品となってしまっている。カラーも目障りだった。雷蔵の魅力が消されている。

 「久保」の隣には松劇という芝居小屋がある。ちょうど我々の横に芝居帰りの中年の女性がいて、久保さんに人気役者を写す写真代に毎月5万円ほど使っているようなことを言っていた。最近、その松劇の10周年に座長大会が開かれ、人気ナンバー1の座長は帯に1000万の花代を刺して踊ったそうである。
 私には、写真に写った座長たちに役者としてのオーラは全く感じなかった。

   「久保」を出ると、自然に足が「春美」に向かった。この店もK氏が居酒屋放浪の結果見つけた店である。着いてすぐデジタルカメラで店内を写そうとして、メモリーカードを挿入していないのに気づく。しばらく思案して、近くのコンビニで「写るんです」を購入することにした。店内を写し終えると、話題はシドニーオリンピックとなり、荻原智子と高橋尚子&監督の話で盛り上がった。昨夜の寝不足で「久保」では体調が悪かったのだけれど、「春美」に来て体調が戻ってきた。私は焼酎のお湯割り、K氏はマグロの刺身を肴に日本酒に移っていた。

 いつしか、飲み屋で客のタバコに火をつけることに話題は移った。春美さんは決して火を付けない。(お酒がなくなっても、客の注文がなければ新しいお酒は出さない)我々も店の女の子に火をつけられるのはお断りの方である。しかしスナックなどでは、女の子が客に火をつけないとサービスを怠っているとママに注意を受けるそうなので、仕方なく火をつけてもらっている。洋服を買いに行って店員に付きまとわれるのと同じくらい嫌なことである。
 先日、「春美」にある大手の会社のグループが飲みに来たらしい。部長以下5人くらいのグループだったらしいのだが、みんなタバコを吸うらしい。その部長がタバコを手にすると間髪おかず部下がライターで火をつけるのだそうだ。部長のタバコがなくなると部下が買いに行く。それも部長が好きな銘柄を言わないので、2種類買ってきたそうだ。

 ところが、このグループが帰る時間が来て、いざ支払いとなると、10円までワリカンだったそうである。??? 我々は、なぜかK氏のおごりで「春美」をあとにした。

 次の店は、私のリクエストで、「露口」となった。「露口」の開店は1958年。もう40年以上の歴史がある。12時近くなっていたので珍しく空いていて、我々の外には一組のカップルしかいない。私はギムレット、K氏はスウィートマティニを注文する。なぜギムレットを注文するのかとK氏が聞くので、店に客がいないので、「長いお別れ」をまねて注文したと答える。店のママさん露口朝子さんによると、やはり夕方開店時にいつも決まってやってきてギムレットをご主人の露口貴雄さんに注文するお客さんがいるらしい。座る席も勿論決まっている。「私が来るとにぎやかになるので帰ってしまう」らしい。

 続いて、私はジンロック。先日友人がジンロックを注文して特別にだされたジン(ブードルス)がおいしかったので、それを注文する。K氏は今度はドライマティニこちらのベースはBeafeater。

 ご主人が、写真家古茂田不二さんが講師をしているフォトクラブの「彩」の作品展の案内を出してくれる。メンバーを見ると、私の同級生がいるのでびっくり。
 古茂田不二さんは、「春美」の常連客でもある。お父さんは画家の古茂田公雄。叔父さんはやはり画家の古茂田守介。因みに私の母は女学校時代、古茂田公雄に1年間絵を習ったことがある。
 「露口」にはお宝がたくさんあるが、この日は、古茂田公雄が晩年描いた裸婦のデザインを砥部焼にした大皿を見せてもらった。
 隣のカップルも一緒に覗き込んでいるうちにお話をするきっかけができる。ご夫婦で、奥さんの方は韓国出身である。日本語がすごく上手い。私が映画「シュリ」をどう思ったかと聞くと、以外にもあまり良い評価ではなかった。結末がすぐ見えてしまって興ざめという評価だった。日本と韓国の若者文化について話題が盛り上がる。

 気がつくと、1時をすぎていた。私にとっては異例の時間である。いつもなら、11時にはダウンしている私にK氏も驚いていた。実は、その日の昼間個人的に大事件がおこりその興奮を引きずっていたためだろう。                


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