プロローグ

 今日は友人K氏との約束。K氏とは、1年あまり前、「居酒屋」放浪を始めた。小説新潮に連載されている太田和彦さんの「ニッポン居酒屋放浪記」に影響をうけたせいでもあるが、「居酒屋」にたどり着くのは自然の成りゆきでもあった。

 元々帰郷して我々の飲み屋通いのスタートは洋酒であった。軽く食事をしながらビールを飲み、その後ショットバーやスナックでカクテルやウィスキーを楽しんだ。馴染みの店も出来ていたが、いつしか閉店となったり、若者たちに占領され居心地の良い場所ではなくなってしまった。飲み仲間の女友達も結婚し、子育てに追われ、年賀のあいさつを交わすだけの間柄になっていた。

 そこでK氏は、「ニッポン居酒屋放浪記」の影響もうけて、今の我々に居心地の良い「居酒屋」を求めて放浪を始めた。ここで言う「居酒屋」には注釈が必要かもしれない。我々がアルコールを飲み始める以前、まだ少年の頃、大人たちの通う飲み屋は、少年にとっては立ち入ることの出来ないちょっと危険な匂いのする場所だった。飲屋街の近くで生まれ育った私だったけれど、自分とは全く関係のない場所と思っていた。
 しかし、いったい大人たちはあの中でいったい何をしているのだろうという謎が心の奥底に存在し続けていたのも事実だった。K氏も同じ思いを持っていたのだろう。ここでいう「居酒屋」とは、その頃の面影を残す我々には謎だった飲み屋である。我々はもう十分に大人になっており、そういった店に立ち入ることが出来るようになっていた。そこには、カクテルは置いていない。我々は日本酒のおいしさが少しわかってきた時期でもあった。

   我々の「居酒屋」通いは、最初、少年の頃の謎解きという確認作業であったのだが、次第にその居心地の良さに魅せられていくこととなった。特に友人K氏は。
 当時の面影、雰囲気を残す「居酒屋」は、やはり古い飲屋街に残っている。旧夷子町や旧北京町に存在している。特に旧夷子町には独特の雰囲気がある。昔の賑やかさはないが、当時から続いていると思われる店(2階建木造)がひっそりと明かりを灯しているのである。

             


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